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現代的なデータ報道のニュース体験は「読む」から「体験する」に変わっていく

2024年02月07日(水)11時10分
荻原和樹(Google News Lab ティーチング・フェロー)

たとえばデータ報道において最も古い歴史を持つ賞のひとつである「シグマ・アワード」(前身データ・ジャーナリズム・アワード)への出品数を見ると、2023年度の応募520作品のうち日本からの出品は四作品だった。

米国や英国など英語圏の国々が数多く出品しているのは自然だとしても、インドや台湾、ナイジェリアといったアジアやアフリカの国々よりはるかに少ない。人口規模を考えると日本の消極さが目立つ。

この違いはどこから来るのか。ひとつには速報や独自情報など、情報そのものの鮮度や貴重さを第一とする業界文化があるだろう。また、日本ではポータルサイト経由でのコンテンツ配信が多く、インタラクティブなプログラムを伴うコンテンツは掲載しにくい事情がある。

ロイタージャーナリズム研究所の調査によると、日本において週に一度以上目にするオンラインニュースの媒体はヤフーニュースが51%と圧倒的トップであり、2位のNHK(9%)を大きく引き離す。

インタラクティブな報道コンテンツはセキュリティなどの理由から配信に大きく制限がかかるため、ニュースポータルを介したコンテンツ配信が主流である日本の報道ではインタラクティブなコンテンツの公開を妨げる遠因となっている。

もちろん、日本でも大手の新聞社や放送局を中心に、少しずつデータ報道は普及しつつある。人気を誇る今年のシグマ・アワードでは、日経新聞の調査報道チームが公開した「都市と気候危機」と題された一連のコンテンツが最終候補まで残った。

ではデータ報道コンテンツを継続的に公開していくために、報道機関には何ができるか。

データ報道に長けた米国の調査報道NPOプロパブリカは、「報道機関においてデータ班を立ち上げるための8つのヒント」というコラムの中で、「開発者を書き手として扱え」と提唱している。指示を受けるだけではなく、記者と同等の意思決定者としてエンジニアやデザイナーを扱うべきという趣旨だ。

紙の時代には記者がコンテンツのあらゆる面を差配し、他部署に「発注」する方法が効率的だったかもしれない。しかしデータ報道コンテンツの制作には、記者だけでなくエンジニアやデザイナーなど、多業種のメンバーが対等にチームとして意思決定を行うことが不可欠だ。

新型コロナを奇貨として、ようやく日本でも芽が出たデータ報道の行く末は、報道機関がどれだけ「開かれた報道」を実現できるかにかかっている。


荻原和樹(Kazuki Ogiwara)
2010年筑波大学卒、同年東洋経済新報社入社。2017年英国エディンバラ大学大学院(修士)修了。2020年「新型コロナウイルス 国内感染の状況」でグッドデザイン賞などを受賞。スマートニュース メディア研究所を経て2022年10月より現職。著書に『データ思考入門』(講談社現代新書、2023年)など。



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アステイオン』99号
 特集:境界を往還する芸術家たち
 公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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