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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ブラジル人で初めてSpotify世界ランキングTop5入りしたアニッタとは?

Spotify世界ランキングTop5入りした「Envolver」(Anitta公式Youtubeよりキャプチャ)

3月22日、音楽ストリーミングサービス『Spotify』の世界ランキング最新チャートにブラジル人歌手アニッタの「Envolver」がTop5入りした。なんとSpotify設立から16年、ブラジル人で初めての快挙である。

ブラジル音楽に興味がある人はアニッタの名前は聞いたことがあるだろう。
彼女は既にブラジルでは大成功、いくつかの国では有名な歌手だが、やっと世界的に名前が知られるチャンスに恵まれた。
まずはアニッタについて少しお話ししたい。

|Youtuber動画からプロデビュー

本名ラリッサ・デ・マセード・マシャード。
リオデジャネイロに生まれ、幼い頃から歌うことが大好きだった。

アニッタは歌手になることを夢見て、Youtubeにそのパフォーマンス動画を投稿。
それを見たフラカォン2000というレコード会社がテストを受けないかとスカウトしたことからプロ契約が決まる。 このフラカォン2000とは、90年代にブームとなったファンキカリオカ*の本家的存在で、アニッタはファンケイラ(ファンキを歌う/好む人)としてデビュー。
その芸名はテレビドラマの主人公アニッタの下品さがないセクシーなキャラクターを気に入り、自ら命名したものだ。

2012年にはポップスに路線変更した「Show das Poderosas」がヒット。
アニッタの名前はファンキの枠を越え、2015年「Bang!」では大幅にステップアップした。 そのミュージックビデオからもアニッタが目指すのは世界だと感じ始めたのはこの頃だろう。

同年にはMTVヨーロッパ・ミュージック・アワードのラテンアメリカアーティスト部門で優勝(ブラジル人初の快挙)。
2016年にはリオデジャネイロ五輪の開会式でパフォーマンスを披露すると、ついに米国のエージェントに移籍した。

*ファンキカリオカとはリオデジャネイロで生まれた貧困層のサブカルチャー、現在はブラジルの代表的な音楽の一つとなった(詳しくは以前の投稿を参照して頂きたい:『オリンピックと共に考える、「ファンキ・カリオカはブラジルを代表する文化」と言えるのか

|11月リリースの曲がなぜ今更ヒットした?

実は今回Top5入りした楽曲「Envolver」は、昨年11月にリリースされた曲だった。
この曲の前にリリースした作品「Faking Love」のミュージックビデオは大作(本人はあまり気に入らなかったそう)だし、最新の作品「Boys Don't Cry」はこれまでのアニッタは80年代を思い出させるような全く違った路線。
その間に発表され、大ヒットには至らなかったこの曲が再び流行り出した理由は、この12秒のビデオ投稿がきっかけだった。

@anitta Y no te voy a envolver... #Envolver ♬ Envolver - Anitta

ブラジルのカーニヴァル期間にアニッタはイベントでこの「Envolver」を歌い、お尻を大胆に揺らすパフォーマンスを披露すると、その動画がTikTokなどのソーシャルメディアで爆発。
ブラジルはもちろん、レゲトンが流行るメキシコなどのスペイン語圏のSpotifyのランキングに急上昇し、ついには世界ランキングで5位となった。

更にはこの床に手をついてお尻を揺らすダンス"El paso de Anitta"を真似して投稿する人が続出。
Youtubeには既に踊り方のコツがアップされ、79歳の女性がInstagramでダンスする動画を投稿した結果、1万人のフォロワーを獲得するまでになった。

|なぜアニッタはポルトガル語で歌わないのか?

実はこの曲はスペイン語で歌われている。
ブラジルの公用語はポルトガル語だが、なぜアニッタはスペイン語で歌ったのだろう。

アニッタは世界を目指した時点で英語とスペイン語で歌うことに重点を置いてきた。
インターネット上で世界各地の音楽が聴けるようになった今でも、言葉の壁は大きい。世界的に通用するためには英語で歌うことが不可欠だった。
日本のOne Ok Rock、韓国のBTSも英語で歌うことで世界中にファンを増やしたのが良い例だろう。(ちなみに両者はブラジルでも人気がある)

しかし、彼らも完全に英語ではなく所々に母国語を取り入れている。
同じくアニッタも完全にポルトガル語を封印したわけでない。

2021年に話題呼んだ「Girl from Rio」は、その名からも連想できるようにアントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ジ・モライスによるボサノヴァの名曲「Girl from Ipanema (イパネマの娘)」のメロディを使った作品で、歌詞は英語でも所々にポルトガル語が使われている。
思い返せば、「イパネマの娘」がヒットしたのも、プロデューサーの提案で曲の半分を英語で歌ったことが米国での大成功の始まりだった。

スペイン語で歌われるのは、まずは比較的文化が近い南米諸国やメキシコでの人気を得て、そこからポルトガル語よりもスペイン語の方が圧倒的に馴染みがある米国に人気が浸透することを狙ったのだろう。
そう思うと、世界のヒットチャートというのは、残念ながらまだまだ欧米ありきという事実を突きつけられる。

|ジャンルと国を越えたコラボはアニッタの戦略法

やっと世界的に名前が知られるようになったアニッタも今年で芸歴12年。
ブラジル全国的なヒットに恵まれる前は、治安の悪い場所でショーを行うこともあった。
アニッタが化けたのは、彼女のダイナミックなパフォーマンスもあるがマーケティングも関係している。(実はアニッタ自身も専門学校でマーケティングを学んでいる)

彼女は常に話題のアーティストとコラボレーションをしファン層を広げているのだ。
その相手はブラジルで人気のMCやグループだけには留まらず、2016年にはコロンビアの超人気歌手マルーマとの共演では4億回以上の再生回数を叩き出した。最近ではアメリカ人ラッパーCardi B、プエルトリコ人ラッパーMyke Towersと共演した「Me Gusta」はYoutubeで1.4億回再生されている。
同曲はスペイン語で歌われているが、ミュージックビデオはブラジル最初の州都サルヴァドールで収録され、所々ブラジルのファンキカリオカのリズムが使われており、アニッタがブラジルの文化を少しずつ海外に広めているのが感じられる。
マドンナのアルバム収録にアニッタが呼ばれた際も、2人でファンキを収録した。

また、ジャンルに捕らわれない音楽性も幅広いファンを飽きさせない秘訣かもしれない。
プエルトリコ発祥で世界的にも人気のレゲトンには特に力を入れている印象だが、ブラジル国内で最も聴かれる音楽セルタネージョ・ウニヴェルシタリオの歌手で先日惜しくも事故死したマリリア・メンドンサや、MPB界の大御所であるカエターノ・ヴェローゾとも共作しており、基本的にアニッタがゲストの音楽性に寄り添う作品が多い。

しかし、自身の魅力を活かしながら柔軟に作品を次々にリリースするアニッタには強烈なアンチも存在する。

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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