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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

偽造ヘルスパスが生んだ悲劇

フランス政府が発行しているヘルスパス 携帯の置いてあるしたにQRコードが入っている   筆者撮影

12月10日に、パリ郊外のガルシュ(オー・ド・セーヌ県)のレイモン・ポアンカレ病院で57歳の女性が新型コロナウィルスのために死亡しました。ここまでならば、今のご時世、特に珍しいニュースではありません。しかし、この女性が入院したのは、12月初旬のことで、彼女の病状は急激に悪化し、重度の呼吸障害に陥り、あっという間に死亡してしまったことに、病院側は疑問を持ちました。既往症もなく、取り立てて高齢でもなく、しかも2回のワクチン接種をしたヘルスパスを提示していた人が、これだけ急激に病状が悪化して亡くなることは、この病院では、初めてのケースだったからです。

当初、病院側は、もしかしたら、このウィルスが未知の影響を及ぼすものかもしれないと検証しましたが、その可能性は認められず、彼女の抗体検査をしたところ、彼女はワクチン未接種であったことが判明し、その段階になって、彼女の夫が「彼女が持っていたのは、偽造ヘルスパス(ワクチン接種証明書)であったこと」を告白したのです。

夫の告白

彼女の死亡後、夫の告白によれば、受付の仕事をしていた彼女はワクチン接種に怯えており、夫は、ワクチン接種を受けるように何度も妻への説得を試みたと言いますが、結局、彼女には聞き入れられず、彼女はしばらく、ヘルスパスの代わりに頻繁にPCR検査の陰性証明書でヘルスパスを乗り切り続けてきました。しかし、ある日、同僚から「ヘルスパスを200ユーロで買うことができる」という情報を聞きつけ、彼女は200ユーロで偽造ヘルスパスを購入したのでした。

しかし、実際にコロナウィルスに感染しても、一度病気になると、ヘルスパスと仕事の両方を失うことを恐れて、彼女はワクチン接種を受けていないことを入院する際にもあえて医師には告げませんでした。夫は、妻から「ワクチン接種を受けていないなんて言わないで!受けていると言って!」と頼まれ、夫も病院にこの事実を告げないまま、あっという間に彼女は亡くなってしまったのです。彼女の死後の夫の後悔は計り知れません。また、彼女が感染したのは、先に学校で感染した息子からと言われていますが、母親を感染させてしまった息子にとっても、残された二人の家族は共に、「自分が妻を、自分が母親を殺してしまった・・」という慚愧の念に耐えられないことでしょう。

ガルシュのレイモン・ポアンカレ病院(APHP)の集中治療室長であるジラリ・アナネ氏によれば、これは重大なミスであり、もしもワクチン未接種だとわかっていて、それなりの適切な治療ができていれば、病気は治癒できる可能性があった・・とても残念なことだと語っています。入院の際に、ワクチン未接種であることがわかっていたら、病気の進行リスクを減少させるのに有効であることが知られている中和抗体を早い段階で患者に投与することができたというのです。

彼女は、偽造ヘルスパスや仕事を失うことを恐れて、「実はヘルスパスが偽造のものであり、ワクチン未接種であること」を医師に告白しなかったことで、彼女は、「自分の命」を失ってしまったのです。

亡くなった人を責めるのは、憚られるところですが、偽ヘルスパスはあくまでも偽物であり、受付という人と多く関わる仕事についている人間が、実際のワクチンもせずに、PCR検査からも逃れて、便宜上だけの偽ヘルスパスを使用して仕事をし続けていたことは、大変、身勝手な行動であり、ヘルスパスの意味を全く考えない無責任な行動であると言わざるを得ません。ワクチン接種が絶対とまでは言わないものの、このような人々が世に放たれて、あたかもワクチン接種済みの人と同様の空間に紛れていることは恐怖ですらあります。ワクチン接種をどうしても受け入れられないならば、せめて、それなりに普通以上の警戒をして、検査を続けて、堂々とワクチン未接種であることを公表すべきだと思うのです。

偽造ヘルスパスの流通

現在、フランスでは、3万6千の偽造ヘルスパスが流通していると言われています。今回、亡くなった彼女が8月の時点で購入した200ユーロの偽ヘルスパスは、ニースの医者から購入したものであることがわかっており、この医者が販売した偽造ヘルスパスは彼女だけではなく、他に販売した先から、すでに発覚しており、医師免許を剥奪されていますが、当の本人は、「自分は医師免許を剥奪された被害者だ!」と息巻いているようで、医師の倫理観など、どこ吹く風で、空恐ろしいことこの上ありません。

また、彼女の夫は、この偽造ヘルスパスを販売した医者に対して「非常に怒りを感じている。彼は医者ではない。殺人者である!」と彼を告訴する意思を公表しています。もちろん、このような偽造ヘルスパスを医者が販売するのは許せないことではありますが、それを購入した本人にも罪はあることで、どうにも腑に落ちないところでもありますが、この医者を告訴するとすれば、実際にこれにより命を落とすことになった被害者の家族以外にはいないかもしれません。しかし、この偽造ヘルスパスについては、それが摘発された時点で、5年の懲役と75,000ユーロ(約975万円)の罰金が課せられることになっています。

偽造パスポートに関する捜査

これらの偽造パスポートは、主にSNS(ソーシャルネットワークサービス)を通じて本格的に展開しています。入手は簡単で、「この証明書は、国民健康保険組合が発行したもの」であり、「国から認証されたもので200ユーロで入手できます」と書かれており、「私たちは偽物を作りません」と平然と言い放っています。(偽物なのに・・)申請には、社会保障番号、苗字、名前、住所、生年月日が必要であると明記されています。

従来は、ワクチン接種の度に、国民健康保険組合の専用の口座から、ワクチン接種者がヘルスパスを発行していますが、今回のように医師本人が偽のヘルスパスを発行している場合もあれば、中には、完全に偽のヘルスパスを発行する業者もいます。また、医療従事者の資格ナンバーを盗んだり、ハッキングしたりして、インターネット上で医療従事者になりすます偽造者も存在しています。

この問題に気づいた国民健康保険組合は、電話から直接入力するパスワードという二重チェックを設定しました。しかし、やはりハッキングされるとすぐに影響が出ます。国民健康保険組合の予防接種サイトの主治医のアカウントに誰かがアクセスし、何度でもパスを認証できるようになるということです。これでは、何十、何百、何千もの偽のワクチン接種証明書が発行できてしまうことになってしまうのです。これは、実際にイヴリーヌ地方の予防接種センターで、紹介した医師の身元を簒奪して、百数十枚の偽造ヘルスパスを発行するのに使われた方法です。

フランスでは、これまでに、すでに11万件の偽造ヘルスパスが発見され、2,300件が無効になっています。このヘルスパス発行に際する医療従事者の国民健康保険の予防接種証明書発行へのアクセスには、身分証明書の提示が義務付けられることになりました。

偽造ヘルスパスを提示した患者の死が警告すること

現在のフランスはヘルスパスさえあれば、ほぼ、日常どおりの生活が送れるようになっています。レストラン、カフェ、映画館、劇場、美術館、スポーツ施設、娯楽施設、長距離移動など、ほぼ全ての場所で、ヘルスパスの提示が求められます。現在では大多数の人がこのヘルスパスを所持して、ごくごく普通に近い日常生活を送っている中で、ワクチン接種をせずにいる人は、その度にPCR検査が必要で、このどこにでも、いつでもアクセスできるヘルスパスは、高額を支払ってでも欲しいのは、わかります。

しかし、ヘルスパスは、感染のリスクの高い場所に集まる人を守るために存在しているものゆえ、そこに偽ヘルスパスが横行しては、意味がなくなります。実際に現在のフランスの状況は、1日の新規感染者数が1週間平均で5万人超えのかなり深刻な状況でもあります。昨日は、とうとうこれまでの記録を更新し、1日の新規感染者数は63,405人に達しています。

ヘルスパスで入場をチェックしているところが、ヘルスパス自体をチェックしなければならないことなどありえないことです。

そして、何より、今回の事例が知らしめてくれたことは、「偽のヘルスパスは、ウィルスを防ぐことができないだけでなく、治療のチャンスを奪ってしまうものである」という衝撃的な事実です。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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