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森田早紀|オランダ

東京オリンピックで「金」を獲得するのは誰か? オランダの報道より

(iStock - jessekarjalainen)

Japan is een beetje in paniek, er gaat van alles mis.
「日本はちょっとしたパニック状態に陥っている。沢山の事が失敗している」

 

コロナ禍・東京の緊急事態宣言にもかかわらず開催される東京オリンピック・パラリンピック。
日本の世論調査では7,8割の人が開催に反対しているイベント。
すでに物議をかもしている東京オリパラ。

これに追い打ちをかけるように明るみに出る森元会長の女性軽蔑発言、式典統括を担当する予定だった佐々木宏氏の女性侮辱騒動、開会式作曲の小山田圭吾氏の障がい者いじめ発言、開閉式のディレクターを務める小林賢太郎氏の反ユダヤ発言問題。日本社会の膿が次から次へと出てくる。

オリンピックの運営自体も壊れかけている日本を「パニック状態」とオランダのラジオ局NPO Radio1に出演したゲストは表現した(フルバージョンはこちら)。

それでも東京オリンピックを「開催しなければいけない」理由をオランダの報道機関は次のように解説している。

政治から切り離されたはずの政治の道具

コロナ禍を乗り越えて開催される大規模スポーツイベント。それが東京オリンピックとなるかもしれない。

IOCのバッハ会長の言葉を借りると「全世界が通っていて、いつ終わるのかわからない暗いトンネル(コロナ禍)の終わりの光に、オリンピック聖火はなりうる」ということだ。

東京オリンピックが中止になったとすると、北京冬季オリンピックがコロナ後初の世界的大規模スポーツイベントとなる。日本はそれを許したくない、だから開催するという説明がなされている。中国の立場から見ると、北京冬季オリンピックを「コロナ後の初の栄光」としたいのであれば、東京オリンピックが中止・失敗になった方が都合は良い。このような説明は、少なくとも2つのメディアで目にした。

ただ、日本の報道を見てみると、話はそう単純ではないようだ(参考:Newsポストセブン2021年6月FISCO2021年7月)。

実際、中国の習近平国家主席は今年5月、IOCのバッハ会長との電話協議で、東京オリンピック開催に賛成の意を示している。そこには次のような意図があるらしい。

まず、戦争以外の理由でオリンピックが中止となる前例・コロナによる世界的スポーツ大会の中止の前例ができることで、北京冬季オリンピックの開催が危ぶまれる。また、中国の人権問題を受けて、複数の国が北京での冬季オリンピック開催に対して抗議・ボイコットの意を示しているが、日本がオリンピックを開催したら中国に抗議する立場が弱くなるという理由も考えられるらしい。

国際政治だけでなく、オリンピック後の総選挙を見据えた与野党の戦いなどの日本国内の政治事情も、東京オリンピックの強行に関わっているだろう。

いずれにせよ、「政治に関しては中立な立場を保ち、介入しない」としているIOCだが、オリンピックという「平和の祭典」が様々な意味で政治的利用されているのは否定できない。

金を獲得するのは

「商業的にも肥大したイベントで、すべてはオリンピックに道を譲らなけばいけなくなった」(nrc 2021年7月の記事

オリンピックは、インフラ投資等に巨額の資金を要する、高コストのイベントだ。当初は「コンパクト五輪」として7340億円の経費を売りにしていた東京オリンピックだが、今では1.6兆円に膨らんだ。さらに、一年間延期するだけで30億ドル、無観客にする費用・損失額は8億ドルと出費はかさむ。

大会経費1.6兆円のうち、組織委員会(IOC、スポンサー、ライセンスを含む)が負担するのは7200億円で、残りは国と東京都が負担する(東京都オリンピック・パラリンピック準備局 2020年12月時点)。さらに、最も高級なホテルに泊まるIOC幹部の宿泊代も日本が負担するという。

過去にも、アテネやリオデジャネイロがオリンピック開催後にそれが一因で財政悪化に苦しんだ(現在進行形で苦しんでいるともいえる)事例がある。巨額の支出・経済損失や治安悪化を懸念して国民が反対したため、2024年のオリンピック開催地の決定過程では複数の国が辞退した。オリンピックには一時的な(プラスの)経済効果が見込まれるものの、長期的に見るとマイナスの方が大きいと言えるだろう。

IMG_20210723_075417.jpg

(筆者撮影 2021年7月22日 オランダの地方紙Tubantia新聞のオリンピック特別冊子。表紙と小記事に続く3,4ページ目には「スポーツパーティー?日本にとってはもはやそうではない」と題した記事が掲載された)

大会経費の850億円分はIOCが負担するらしいが、あるオランダのニュース記事によると費用の回収はIOCにとっては簡単なものらしい。

2016年リオデジャネイロオリンピックの数字に基づく推測によると、IOCの収入は約40億ドル(約4400億円)に上る予定で、うち10億ドルは大手スポンサー企業から、30億ドルは放映権料からくる。

1990年代後半には10の大手スポンサー企業が、4年サイクルにつき9500万ドルを出資していたが、近年は15の大手スポンサー企業が17億ドルを出資しているという。その引き換えに、宣伝の機会と場を得る。ちなみに、スポンサーにはダウ・ケミカル、パナソニック、P&G、トヨタ、Visaが含まれる。

1928年から、IOCのスポンサーであるコカ・コーラ社に関して、「オリンピックがなければこれほど成長していなかった」と述べるマーケティング事業者がいる。会場に持ち込んでいいラベル付き飲料はコカ・コーラのみ、選手村の支払いはVISAのみ、といった制限を疑問視する声もある。

真夏・炎天下の東京で、熱中症や熱射病等スポーツ選手の健康リスクがあるにもかかわらずスポーツイベントが開催されるのにもお金が絡んでいるとか(nrc)。大型スポーツイベントが重なると、テレビ局等は視聴者が様々なチャンネルに分散してしまうため、都合が悪い。欧米の野球・サッカー・ラグビー等のスポーツシーズンをできるだけ避けた時期、それが7・8月という訳だ。

1964年の東京オリンピックは10月に開催されたが、そのころはスポーツ界の事情が異なっただけでなく、まだIOCも現状程には金と権力を飲み込み飲み込まれたモンスターではなかったのだろう。

お金がなければ、大規模な世界大会を催すことは困難だろう。しかしオリンピックの現状を見てみると、大会そのもののためというよりは、どうもほんの一握りの企業(スポンサー、テレビ局等)や団体のために利益を分配する仕組みとなっているように思われる。

歴史に残るオリンピック

「商業的イベント」になったオリンピック。不祥事が続く東京オリンピック。

開会式が行われた7月23日にもオランダの複数のメディアで、オリンピック中止を訴えるデモの様子が報道された。

冒頭に紹介したラジオ番組のホストは、「こんなオリンピックはいったい日本の歴史にどのように刻まれるのだろうか」と尋ねている。

さて、どうだろう。文書と記憶の黒塗り・改ざん・捏造と紛失で、「栄光のオリンピック」に書き換えられているかもしれない...

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ。農業応用科学大学の4年生。卒業後は地元で百姓になり、楽しく優しい社会を、農を軸に築きたい!オランダで生活する中、感じていることをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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