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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

実験としてライブ開催、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2021

 さて、今年のユーロヴィジョンはどうだったか。

 実はこの数年、個性派が減って全体に洗練されすぎでは? と少し寂しく思っていたけれど、今年ははみだしパフォーマンスがずいぶん戻ってきたし、バリエーションも豊富で大満足だった。特に印象に残った組は、ポップスとして楽しいイスラエル、エキゾチックなリズムで自然と体が動いてしまうアゼルバイジャン、ビックサイズの18歳の力強い歌声が話題になったマルタ、民謡と電子音楽をミックスした不思議な魅力のウクライナ、歌の力強さにシンプルに惹きつけられたフランス、明るいテクノ音楽とへんてこダンスを披露したリトアニア、怒り狂ったヘビメタのフィンランド、子ども番組から抜け出してきたようなドイツ、パフォーマンス中にサングラスを外してチック症の症状を見せたノルウェーなどなど。

 最後は、イタリア語でヘビメタを披露したイタリア代表の人気バンド、マネスキンが大きな視聴者票で逆転優勝した。ちなみ英国はなんと0ポイントで最下位。ヒットチャートをにぎわすアーティストの多い英国はこういう大会では強そうに思えるが、実はもともとめちゃくちゃ弱い。さらに今年はEU離脱してから初めてのユーロヴィジョンだったので、複雑な感情が投票に表れたのでは? ともささやかれている。

 いろいろな楽しみ方ができるユーロヴィジョンだが、太っ腹なことに決勝戦の全4時間をYouTubeでノーカットで観ることができる。また公式チャンネルでは国ごとのパフォーマンスを過去の分も簡単に検索して観ることができる。英国のテレビが見られる環境なら、コメディアンのグレアム・ノートンがおもしろおかしく中継するBBCの番組もおすすめ。楽しみながら歌合戦の雰囲気をつかみたいなら、昨年大ヒットしたネットフリックス映画、「ユーロヴィジョン歌合戦〜ファイヤ・サーガ物語〜」(原題:Eurovision)もいい。歌合戦の魅力をぎゅっと詰めこんだコメディーで、今年の決勝投票ではこの映画をいじったジョークも飛び出した。

(今年のアカデミー賞にまさかの楽曲賞でノミネートされたほど本格的な音楽も魅力のひとつ。ヒロインの歌の吹き替えを担当しているのは、ジュニア・ユーロヴィジョンや国内予選にも出場経験があるモリー・サンデーンというスウェーデンの歌手だ)

 2年ぶりのユーロヴィジョンはすべて楽しかったけれど、思い返すと、マスクをせずに歌ったりハグしたりする人たちを4時間見続けて、コロナ禍のことをしばし忘れることができたのも精神的にとてもよかったと思う。そして生演奏やライブイベントをもっともっと見たくなった。この大会は実験として開催されたが、英国内の大型イベントはまだほとんどがオンライン開催だ。陽性者が出た時の対応など今回のデータを生かして実験の分析が進み、大型イベントが早く再開されますように。

 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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