World Voice

powerd_by_nw

ベネルクスから潮流に抗って

岸本聡子|ベルギー

残された時間はあと10年、ナオミ・クライン

@NaomiAKlein

世界的に署名な環境活動家でありジャーナリストである。私が今さら書くこともなかろうと思ったが、どっこい。日本では意外に知られていない感じがするし、ヨーロッパでだって、進歩的なコミュニティーを一歩出れば、知らない人は多い。1999年のNo Logo (邦題「ブランドなんか、いらない」)以来、すべての著作は世界的ベストセラーで日本語を含め世界各国語で翻訳されている。

1999年と言えば、米シアトルで開催された世界貿易機関(WTO)の会合に対して、世界各地から参集した環境保護や労働運動など多様なNGO団体による抗議活動が大展開し、グローバルジャスティス運動の新たな転機となった年である。グローバル資本主義の正体が庶民に明らかになりつつあり、今までばらばらであった、労働者、女性、農民、環境、先住民らの運動がつながりはじめた。シアトルの闘いはその象徴となった。

社会運動に寄り添うジャーナリズムで、シアトルを伝えた彼女。ナオミはいつも運動の中にあり、数えきれないデモで横断幕も持ち、スピーチをし、先住民や化石燃料採掘場のフロントラインの人々と行動を共にし、卓越した知性と文才で権力と闘かってきた活動家である。

日本のセンスのよい出版社が、彼女の新刊 'On Fire' をいち早く日本語に翻訳、出版してくれて歓喜した。そして、先鋭的な編集者さんが「地球が燃えている」をわざわざベルギーの私の元に献本してくださり、私はお正月休みの読書プロジェクトを頂いたわけだ。

naomi.jpg大月書店

正直に言って、ナオミの360ページに渡る 'On Fire' は、寝不足になってまでも読み続けてしまう推理小説やエンターテイメントから程遠い。日本語でさえも読むのに時間がかかるし、一章、一章が重く響く。けっこうしんどい。彼女は気候変動問題を(植民地の)歴史、政治、経済、社会、文化すべてが絡み合う構造的な問題と捉えている。技術革新や、個人のちょっとましな消費行動や、企業の表面的な社会貢献などで乗り切れるものでは、とうていないことを鋭く検証する。

カナダ人でアメリカ在のナオミも私たちも不都合な真実から目を背けられない。「世界の温室効果ガスのほぼ50%は世界の人口の中でもっとも豊かな10%によって生み出されている。最も裕福な20%が70%を生み出している。しかしこうした温室効果ガスの影響は、もっとも貧しい人々に真っ先に最悪の被害を与えており、...」

日本人の多くも、私が住むベルギーの大半の人も「最も裕福な20%」に入るし、人によっては「最も裕福な10%」に入る、気候変動問題の加害者だ。しかしナオミは個人を責めて個別に倫理的な行動を促すことはしない。常に犠牲者と犠牲ゾーンを維持することによってのみ永続するシステムー資本主義ともいうーの有り様を問題にする。気候変動問題は社会経済政治システムを根源的に、しかも急速に変えることを要求している。現在のシステムから利益をむさぼっている権力や人々に抗して、私たち普通の人たちが共同して革新的な行動を起こすことができると。

地球の資源を際限なく採りつくす(ディグー掘る)エコノミーは、人間を原料資源や単なるコストとして扱い、搾取した後切り捨てるギグエコノミーでもある。保育、福祉、教育といった人をケアする仕事、汚染された土地や水や生態系をリペア(修復)する「ケアとリペア」を原則とするエコノミーに変えなくてはいけないと彼女は言う。

ケアとリペアを脱炭素化社会の中核に、というのはコロナが2020年初頭に世界を襲って以降、知識人、運動家、フェミニストたちがしきりに議論を重ねてきたとこだ。ナオミは2017年の時点でこのことをはっきりと言っていた。やっぱりすごい。

昨年は、もう一つの熱い翻訳本99%のフェミニズム宣言』も出た。筆者の一人ティティ・バタチャーリャはアメリカの大学で教鞭をとるマルクス主義フェミニスト。この人も私が多いに注目する人である。率直に言って、コロナ危機になるまで、私のレーダーに彼女を始めとするフェミニストたちの偉業がしっかり入っていなかった。ナオミだけではない。彼女たちもコロナの前からずっと言っていた。

医療、教育、介護、公共サービス、清掃など社会に必要な仕事の大半を女性が担っている。その価値は過小評価され、賃金は抑えられているか無償である。ティティはこのような分野をライフメイキングシステム(命を育む仕組み)と呼ぶ。資本主義は労働者を得るためにやむを得ずライフメイキングシステムに依存しながら、常にこれを攻撃してくる。労働者の賃金を減らし民営化を推し進める。ティティもまた、命を育む仕組みを社会、政治、経済の中心にしなくてはいけないという。

「地球が燃えている」の帯には「残された時間はあと10年」と大きな文字が翻る。残念なことに、これは環境活動家の脅しでも大げさでもない。国連の正式な第一線の気候科学者たちは、「2030年までに社会システムの抜本的な変化を起こさなくては、2100年の世界は、<unrecognizable>今の状態から見る影もない」状況になると警告している。気候変動の影響が出るには時差があり、今の行動が80年後の世界を決めるのだ。ナオミがこの本を書いたのは10年のカウントダウンが始まる直前、日本語版の出版で文字通りカウントダウンが始まった。

私はまず最新に書かれた序章「私たちは山火事だ」とグリーン・ニューディールについての最終章から読み始めた。彼女は、近年グローバル・グリーン・ニューディールの立役者の一人となっている。複雑なグリーン・ニューディール議論の彼女の現在の立場を知りたかった。グリーン・ニューディールはだれが発信するかによっていろいろな様子を呈している。ナオミにとっては「職場、大学、学校、地域、メディアなどすべてのセクターで、主体的に脱炭素化のための具体的な計画を立てることであり、それは貧困を減らし、よりよい仕事を創出し、ジェンダーや人種間の格差をなくすこと」のようだ。

ナオミの言う包括的なグリーン・ニューディールは、各地で芽生えるフェミニスト・グリーンディールインドの開発経済学者ジャヤティ・ゴーシュ(she/her)の言葉に通じる。「世界規模でレッド、グリーン、パープルニューディールが必要です。赤は極端なまでになった富の格差に是正すること、緑は環境と生態系の崩壊を止めること、紫は、労働者階級の女性を中心とするエッセンシャル・ケアワークを経済価値システムの中心にすること」とウェビナーで語ってくれた。

私は2021年も彼女たちの鋭さと変革に注目しづつける。

 

Profile

著者プロフィール
岸本聡子

1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ