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平野美紀|オーストラリア

ジョコビッチ、ワクチン接種を巡る入国ドタバタ劇の真相【後編】感染による免除が承認されたのか

毎年、ビクトリア州の州都メルボルンで開催されるテニス4大大会のひとつ、全豪オープン。(PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

ジョコビッチ選手は、豪テニス協会が示してきた「過去6ヶ月以内の感染」を『医学的免除』の根拠として、オーストラリア入国を試みたとされる。

「6ヶ月以内の感染」を盾に『免除』は可能なのだろうか?また、ビザは下りるのだろうか?
ジョコビッチの感染による医学的免除は認められたのか?誰によって申請書類が作成、承認されたのか?

彼が、突然、出場することになった経緯には、不可解なことがいくつもある。

※このコラムは、【前編】と【後編(これ)】に分かれています。ぜひ、最初から通してお読みください!

『医学的免除』をうけるための証拠書類は誰が作成し、承認したのか

現在、入国ビザは、オンライン申請による自動発給となっているため、申請者が各自、自分で証拠となる書類をアップロードする必要がある。

ここで、問題となるのは、ジョコビッチ選手がどんな証拠書類を提出したかだ。

まず、豪テニス協会から送られたメールにあった最初の関門「海外の医学的免除証明」は、彼の主治医のような人に出してもらうことが可能だろう。

しかし、この証明書に加え、「大会でプレーするための免除証明」が必要となり、さらに、独立した豪国内の開業医または専門の医療関係機関によって承認されなければならない。

2つの情報筋によると、ジョコビッチ選手の申請書類のうち、1つは豪テニス協会、もう1つはビクトリア州保健局が作成したもので、審査した医療委員会は、全会一致で結論を出したと伝えられている。

豪テニス協会は、これについて、ジョコビッチ選手と同じような境遇の選手26人がこの申請を行ったが、審査は、選手の氏名等の個人情報を伏せた形で行われ、承認されたのはほんの一握りだったと弁明した。(参照
(ここではあえて触れないが、ジョコビッチ選手と同様の条件下で入国した選手数名も、再度、入国審査が行われ、ビザ取り消し処分になっている)

ジョコビッチ選手側は、このように、豪テニス協会とビクトリア州保健局が作成した免除に関する書類やそれが承認されたことを示す書類をアップロードしているのだから、ビザは問題なく、自動的に下りてしまうだろうとは思う。

入国審査でのやりとりから、明らかになった事実

ジョコビッチ選手と入国審査官とのやりとりからも、彼が入国審査で、豪テニス協会から伝えられたこの『医学的免除』措置のための必要書類をすべて揃えて提出していたことが明らかになった。

これは、ジョコビッチ選手がオーストラリアに到着した際に、豪テニス協会のロゴ入りの書類の束を提出しているところを目撃した人の話からも、伺い知ることができる。

この事実を基に、連邦裁判所の判事は、ジョコビッチ選手の主張を支持し、拘留状態をただちに解くよう申し渡した。これは、入国時の証拠書類の提出等においては、ジョコビッチ選手に非はないと認めたということだ。つまり、裁判では、彼ができる範囲のすべてのことをしているにも関わらず、拘留状態に置かれているのは「不合理」だとして、その解放を言い渡したということになる。

ただし、この時点では、彼のワクチン接種状況や彼が提示した医学的根拠の有効性は、一切関係ないことに注意したい。

拘留ホテルは出られたものの・・・更なる問題が

拘留状態から解放され、監視下におかれる不便な拘留ホテルを出ることができたジョコビッチ選手だが、気になるのは、彼が「医学的免除」の根拠として提出した「6ヶ月以内の感染」の感染発覚日だ。

ジョコビッチ選手は、12月16日に感染確認されたことをもって、出場のための「医学的免除」を申請し、最終的に、30日に豪テニス協会の最高医療責任者からお墨付きをもらったという。(参照

奇妙なのは、豪テニス協会は先のレターに、申請の締め切りは『12月10日』であると記されていたことだ。

拘留を解かれ、裁判に勝利したことに感謝し、全豪出場への抱負を語るジョコビッチ選手のツイート。

さらには、感染が判明した翌日の17日に、母国セルビアで開かれたジュニア・テニスのイベントに参加していたことが発覚。(参照

そして、この件に関連して、新たな疑惑も浮上。オーストラリアは現在、入国書類に、入国前の14日以内に海外渡航をしたかどうか尋ねる項目があり、これに虚偽の申告しているのではないかというのだ。

ジョコビッチ選手は、クリスマス休暇を過ごしていたスペインからオーストラリアへ向かったとされているが、12月17日にはセルビアでイベントに参加、クリスマスをスペインで過ごし、そこから1月4日にオーストラリアへ向かったとしたら・・・

ジョコビッチ選手が、いつスペインへ移動したのか、休暇を過ごしていた場所が来豪前の生活拠点として認められるのかが焦点になりそうだが、これについては現在、国境警備隊が調査中だという。(参照

このジョコビッチ選手の入国問題に関しては、セルビア大統領が直々に豪モリソン首相に電話して、対応を求めるなど、単なるスポーツ・イベントではなく、政治問題にまで発展してきている。また、連邦政府は、『医学的免除』要件を満たしていないジョコビッチ選手の入国について認めたわけではなく、移民法の規定範囲においてビザを却下することを検討しているという。

ジョコビッチ選手側にも処々問題がありそうだが、一番の問題は、11月に連邦政府から受け取ったレターで言及されていた、「過去6か月以内の感染では、医学的免除を受けるのに十分とは見なされない」ことを選手に明確に伝えていなかったことではないだろうか。(参照

一(いち)テニス・ファン(ではあるが、ジョコ・ファンではない)としてこの問題を追っていくと、世界ナンバー1の選手であり、昨年の大会優勝者かつ連覇や記録がかかったスター選手に出場してもらいたい大会側の思惑と、伝統あるグランドスラムに出場して記録を更新したいジョコビッチ選手側の思惑が複雑に絡み合い、水面下であらゆる工作が巧みに行われてきた感じがしてしまうのは、私だけではないはずだ。

ともあれ、大会開催まであと6日。始まる前からドタバタ続きで、クリーンでスムーズな大会は期待できそうもないが、他の出場選手たちに影響がでないことを祈るばかりである。〈了〉

【関連コラム】
ジョコビッチ、ワクチン接種を巡る入国ドタバタ劇の真相【前編】豪入国拒否から一転、裁判で勝利

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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