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平野美紀|オーストラリア

知られざるマカダミアナッツの真実 ~世界で最も興味深いナッツ

カリっとした歯触りとクリーミーな味わいで他のナッツにはない独特の風味のマカダミアナッツ。(Credit:Diana Taliun-iStock)

ハワイ土産として定番の「マカダミアナッツ」をくるんだチョコレート。カリッとした歯触りと甘いナッツの風味は、チョコレートとの相性が抜群で、好きな人も多いはず。ハワイに行けば、チョコレートだけでなく、粒がそのまま入った缶入りのものなど、どこの土産店にもマカダミアナッツ製品がずらりと並ぶ。

でも・・・マカダミアナッツがハワイの名産かのようになっていることに、オーストラリア人はモヤモヤしている。

なぜかというと、マカダミアナッツはオーストラリアが原産だからだ。

昔はこの事実を日本で知る人は少なく、「マカダミアナッツはオーストラリアが原産」だというと、かなりの割合で驚く人がいた。最近では割と浸透しつつあるようで、「そんなことは知っているよ!」という人も結構いるかもしれない。

しかし、すっかりお馴染みになったナッツ「マカダミア」には、これ以外にも興味深い逸話がいくつもある。

海を渡ったマカダミアナッツのルーツや豪先住民の伝説、オーストラリア数千年の知恵が詰まった『世界で最も好奇心をそそる魅力的なナッツ』でもあるのだ。

マカダミアナッツのふるさと

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商業生産されているマカダミアナッツ。実の中に入っている硬い種子を割ると、お馴染みの乳白色の可食部が入っている。(Credit:Credit:YinYang-iStock)

マカダミアナッツは、オーストラリア大陸東部を南北に走るグレートディバイディング山脈に沿ってできた多雨林に自生するオーストラリア固有の植物だ。

主な自生地区は、ニューサウスウェールズ州北東部からクイーンズランド州東部にかけての温暖な地域だが、ほとんどがクイーンズランド州に入るため、「クイーンズランド・ナッツ」とも呼ばれる。

「マカダミア」という名称は、1857年に植物学者フェルディナンド・ヴォン・ミューラーとウォルター・ヒルがオーストラリア探索で発見した際に、友人であった著名な化学者ジョン・マカダムの名をとったことに由来するという。

野生種は、4種あるが、商業生産品として「マカダミアナッツ」を収穫しているのは2種。そのうちの1種は、先住民の人々が「ジンドル」または「ジンディリ」などと呼んできたもので、後にヨーロッパからの入植者が入ってきてから、「キンダル・キンダル」と名付けられ、これを品種改良してきたものが、現在の主な商業用品種となっているそうだ。(参照

先住民伝説にも登場するオーストラリア数千年の知恵が詰まった万能植物

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豪先住民の人々は、数千年前からマカダミアナッツの油を搾って様々な形で使用してきたという。(Credit:efired-iStock)

オーストラリア・マカダミアナッツ協会によると、マカダミアナッツは6千万年前頃からオーストラリア大陸に存在した植物だという。

そのため、このマカダミアナッツも、以前のコラム「先住民の知恵に学ぶ、森の恵みのスーパーフード」で紹介したオーストラリアのブッシュフード(何千年も前から豪先住民が食べてきた食料)のひとつだ。先住民の人々は、ナッツをそのまま食べるだけでなく、ナッツから油を搾り出して様々なシーンで利用してきた。

油をそのまま塗布して、肌の再生と活性化を促す化粧品のような使用法のほか、他の植物の抽出物と混ぜてキャリアオイルとして使用し、薬品を作っていたという。また、黄土や粘土で顔や体に図柄を描くためのバインダーとしても使用していたそうだ。食料としては、主食ではなく、儀式の際の贈り物やごちそうであったというから、楽に採取できない貴重な食べ物であったことがうかがえる。

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マカダミアナッツ農園。木はかなり大きく成長し、7~10年で10~15メートルまで達するものも。商業農園でも多くは100年以上生きるという。(Credit:Ken Holmes-iStock)

先住民の人々が語り継いできた伝説のなかに、マカダミアナッツが登場するものがある。

クイーンズランド州フレーザー島の先住民族には、山の見張りをするために出かけた男が怪我をして動けなくなってしまったところ、友達のトカゲと途中で出会ったワラビーやオウムが知恵を絞り、助けが来るまでの間、男が食べられるようにと、マカダミアナッツを近くに撒いた...という話が伝わっている。小さくても栄養豊富であることが、この時からわかっていたのだろう。

現代の研究により、実際に栄養価が高く、植物由来のオメガ3脂肪酸や一価不飽和脂肪酸、マンガンなど抗酸化物質が多く含まれ、数々の効能が期待できることが明らかになっている。(主な栄養成分

マカダミアナッツが、現代のスキンケアやヘアケア製品などにも使われていることをご存知の方も多いと思うが、先住民の人々が、何千年も前から今とほとんど変わらない使い方をしていたことに、驚嘆するばかりだ。

人間にとってはベネフィットの多いマカダミアナッツだが、犬にとっては有毒なので、犬を飼っている人は、誤って食べさせたりしないようご注意を。(参照

たった1本の木から世界へ

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ギンピーから海沿いへ向かうと、マカダミアナッツのアボリジナル伝説が残るフレーザー島南端への玄関口でもあるレインボービーチという小さなリゾートタウンに辿り着く。(Credit:zstockphotos-iStock)

マカダミアナッツは、1800年代初頭にオーストラリアから種子が持ち出され、ハワイへと渡り、当初はサトウキビの防風林として植林されたという。後に食用として注目され、冒頭で触れたようなハワイの大ヒット土産となった。

食用として最初に目をつけたのが、有名なハワイ土産チョコレート「ハワイアンホースト」の創業者マモル・タキタニ氏という日系3世であることも興味深い話だが、それよりも好奇心をそそられるのは、世界生産量の大半を占めるマカダミアナッツの木のルーツだ。

2019年に行われたDNA調査によると、世界の7割を占める生産量を誇るハワイのすべてのマカダミアナッツの木は、クイーンズランド州のギンピー周辺に自生していた1本の木に由来するということがわかったという。

つまり、ハワイにあるマカダミアナッツの木はすべて、ギンピーの1本の木のクローンであるというのだ。(参照

ギンピーに自生していた1本の野生マカダミアナッツの子供たちが、海の向こうで根付いている ───

そう思うと、なんとも感慨深い。

ギンピーは、クイーンズランド州でゴールド・コーストと対をなす、美しい海岸線が続くサンシャイン・コーストの北西内陸部にある小さな町。上で紹介した先住民の伝説が伝わるフレーザー島へも近い。町の近くのキャラバン・パークに滞在したこともあり、オーストラリア東部を南北に移動する際に、何度となく通っているため、なにやらやたらと親近感がわく。

ただ、野生種のマカダミアナッツは、絶滅の危機にあるという。種を絶やさぬよう、なんとしても守っていかなければならないと強く思うとともに、これからは、マカダミアナッツをカリっと噛むたびに、ギンピーの温暖な気候とどこまでも広がる青い空のことを思い出すことになりそうだ。〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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