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サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国より

古庄亨|ブラジル

ブラジルサッカーの特殊なスポンサー事情

mel-nik-iStock
無いチームが多い気が...

ヨーロッパの各国リーグが開幕した。
お陰で、午前中から夕方に数試合を見た後、夜は仕上げにブラジル国内リーグを数試合見るという、贅沢な日が週に何度か出てきてしまう。
本業に差し支えがあるので、自制心との勝負である。

ブラジルは日本と違い、同じカテゴリーであっても、同日、同時刻に試合を行わない事が多く、水曜日、木曜日、土曜日、日曜日に分かれて開催している。キックオフ時間は平日は一番早い試合で17時30分、一番遅い試合は21時30分や22時からが多い。
土日は11時からや15時、16時、17時キックオフがある為、その気になれば本当に1日中テレビの前に座って試合を見る事ができる。

そんなブラジルの国内リーグを見ていて一つ感じた事がある。
ブラジル全国選手権セリエAに所属している20チーム。
胸スポンサーが入っていないチームが多いのだ。

胸スポンサーといえば、ユニフォーム広告の中では一番視覚効果がある箇所であり、その分価格も高い為、クラブにとっては是非とも埋めたい箇所である。
特に今季は無観客試合でリーグがスタートしている為、試合をすればするほど赤字が嵩むクラブにとって、とても重要な収入源である。

ある共通点が...
少し調べてみると、20チーム中14チームが胸スポンサーあり。
残り6チームが胸スポンサー無しであった。

(フルミネンセFC)
(サントスFC)
(ボタフォゴFR)
ただこの14チームのうち、胸の名前を見てすぐ分かる、もしくは調べてすぐに企業名が出てくる様な大企業名が入っているチームは9チームであった。
残りの6チームはスポーツサイト、ネットくじ、スポーツショップなどで、胸スポンサーとして広告は出しているが、それほどクラブ側が収入を得てはいないと考えられる。

更に、この9チームの中で飲料系の『レッドブル』が入っている今期昇格組のブラガンチーノ。
オーストリアのザルツブルクやドイツのライプツィヒと同じ様に、レッドブル・ブラガンチーノというチーム名にもなっており、実質はチームオーナーであり、純粋な胸スポンサーとは呼べない為、ここでは除外する。

では、残りの8チームについて話をしよう。

アトレチコ・ミネイロ 『BMG』
インテル・ナシオナル 『Banrisul』
サンパウロFC 『Banco Inter』
SEパルメイラス 『Crefisa』
CRヴァスコ・ダ・ガマ 『BMG』
CRフラメンゴ 『BRB』
グレミオFBPA 『Banrisul』
SCコリンチャンス 『BMG』

以上となる。
実はこの8チームの胸スポンサー企業にはある共通点がある。

それは、すべて『銀行』なのである。

昨年まで、複数のチームの胸スポンサーになっていた『CAIXA』という企業も銀行であった。

他国のリーグの詳細は分からないが、胸スポンサーの業種がこれほど偏る国も珍しいのではないだろうか。

世界の通貨に対してどんどん価値を下げていくブラジルレアル。
埋まらないトップリーグ所属チームの胸スポンサー。
コロナ禍を含めたブラジルの国内の経済状況悪化を如実に表している。

どの企業も従業員解雇や、事業所閉鎖などを行なっており、資金繰りの悪化で大変な中、サッカーチームのスポンサーをしている場合ではないというのが本音であろう。
早い企業では3月の自粛規制が始まったタイミングで、コストカットの為に従業員の半数約2,000人を解雇した会社もある。
その状況で、この会社がサッカーにお金を使っていたら暴動が起こってもおかしくはないだろう。

コロナ禍以外の問題...

では、コロナ禍以外には問題は無いのだろうか。
胸スポンサーが埋まらない原因としては、こちらの方がいかにもブラジルらしいエピソードがある。

筆者が仲良くさせていただいている方で、大のサッカー好きの現地日系企業の社長がいらっしゃる。
そんなに好きなら会社でスポンサードすれば良いじゃないですかという話をした事があった。

返ってきた返答に納得せざるを得なかった。

『勿論それは何度も考えたが、会社で一つのチームをスポンサードするのは難しい。
変な色がついてしまったり、イメージがついてしまうと不買運動に繋がる。』

日本国内で考えると、例えば浦和レッズのサポーターでも日産やトヨタの車に乗っている方はいるだろう。
勿論、三菱以外の車には拘って乗らない方もいるし、もしかしたらサポーター仲間にもなんで三菱じゃないんだよという冗談や皮肉は言われているかもしれない。とはいえ、車を壊されたり身体への被害がある事は皆無だろう。

しかし、ここブラジルではそれが現実のものとなる。
そのクラブに関係する歴史、哲学、サポーター層、地域そしてカラーなどの持つ意味を皆が理解している。

例えばスポーツ観戦に行く時や、スポーツ関連施設に行く時に服の色に気をつけるのは普通の事である。
弊社スポーツアカデミーで子供達を連れて試合を見に行く時も、注意事項で服の色について言明する。
チームの応援の為という様な考えではなく、自分自身の身を守る為である。

筆者は、2016年にSCコリンチャンスのクラブ施設にてフットサルの試合観戦後、帰路で寒くて上着を羽織ったのだが、薄い緑(決して濃くはない)だった為に、一斉に周囲からどやされ脱がざるを得なかった事がある。これくらい薄い色なら大丈夫かと思っていたが、全く許されなかった。直ぐに脱いだから良かったものの、意地を張って着用していたら囲まれていただろう。暴言を吐いていた人達の周りも誰も笑ったり止めたりする人はいなかった。悪いのは緑色の服を来た筆者自身だと誰もが思っていたのである。
※因みに緑は同じサンパウロで派遣を争っているSEパウメイラスのチームカラーである。

また、とあるJクラブの下部組織がブラジル遠征に来た際、プロの試合が行われるスタジアムの見学に行った入り口で、着用していたジャージが全員緑色だった為に、入場させるさせないで大揉めしたそうだ。

ブラジル人にとって、自クラブのカラーは何よりも尊いモノであり、他クラブのカラーは全て憎悪の対象となる。
例えチーム名やエンブレムが入っていなくてもだ。
カラーがただのカラーで終わらず、重要な意味を持っている。
日本人だから大目に見てくれるでしょというのが通用しない場面が存在するのである。

そんなお国柄だからこそ、ある一定のチームに肩入れする事で失ってしまう顧客が存在するという事、大会へのスポンサーはあってもチームへのスポンサードには消極的になってしまうというのも頷ける。

そういった視点から見てみると『Banrisul』という銀行が何故同じ地域に存在する2チームの胸スポンサーに入っているかという疑問の答えが見えてくる。

上手くリスクヘッジをしているのだ。

ヒオグランヂ・ド・スウ州の2大強豪チームのインテルナシオナルとグレミオPAは、共にブラジル全国SE選手権セリエAに所属する強豪で、州内の人気を2分している。

実はこの2チーム、胸スポンサーだけでなく肩スポンサーも同じなのである。

ビッグチームのどちらか一つをスポンサードするのではなく、両チームに行う事で、リスクヘッジに加え、一方の顧客を失う事なく州内全域の人々を顧客として取り込む事も狙いとしてあるのだろう。
(インテルナシオナル)
(グレミオFBPA)
サッカークラブという団体が会社の経営戦略にも大きな影響力を与える力を持つブラジル。
狂信的とも言えるこの国のサッカー文化はやはり面白い。

因みに、気になるそれぞれの胸スポンサーの金額は下記の通りである。
ヨーロッパほどでは無いが、やはりそれなりの額であると感じた。
(優勝時のボーナス契約などは入っていない)

SEパルメイラス 『Crefisa』 16億2千万円
CRフラメンゴ 『BRB』 6億4千万円
グレミオFBPA 『Banrisul 』3億2千万円
SCコリンチャンス 『BMG』 2億4千万円
(SEパウメイラスの2020年シーズン胸スポンサーについての記者会見)
最後に明るい話題を...。

ブラジルでも日本の様に30%の観客を入れて開催する為の会議が始まった。
年内までにサッカー観戦がある日常が帰ってくるかもしれない。

やはり、この国にはサッカーが必要である。
 

Profile

著者プロフィール
古庄亨

ブラジル・サンパウロ在住。日本・ブラジル・タイの3ヶ国で、2010年までフットサル選手としてプレー。2011年より5年間、都内スポーツマネージメント会社勤務。2016年ブラジルに渡り翌年現地にて起業。サッカーを中心にスポーツ・教育関連事業で活動中。

Webサイト: アレグリアスポーツアカデミー・サンパウロ

Twitter: @toru_furusho

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