コラム

国石「ヒスイ」が生まれる東西日本の境界を歩く

2021年09月17日(金)16時20分

撮影:内村コースケ

第29回 平岩駅 - 頸城大野駅
<令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた。>

map1.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの28回で実際に歩いてきたルート:YAMAP「軌跡マップ」より

◆日本の地質的首都・糸魚川

A1_03457.jpg

今回のスタート地点、糸魚川市平岩の町。東西日本の境界にある立体的な立地だ

ついに、東京から列島の真ん中を横断して日本海を目指すこの旅の最終目的地・新潟県糸魚川市の玄関口に到達した。今回は長野県境にある平岩駅からスタートして市街地入り口まで歩き、次回のゴールにつなぐ予定だ。

糸魚川は、北アメリカプレートとユーラシアプレートがぶつかる日本列島の地質的中心である。プレートがぶつかってできた大地溝帯「フォッサマグナ」を形成するその特異な地形から、国内に9ヶ所ある「ユネスコ世界ジオパーク」の一つに数えられる。ジオパークとは、簡単に言えば世界遺産の地質版。ただし、認定基準に違いがある。世界遺産が価値のある「モノ」の保護を主目的としているのに対し、ジオパークは大地に宿る文化・伝統を含めた環境全体の保護と地域振興などへの有効活用を目的にしている。持続可能な開発のみが許され、そのため、4年の一度の再審査が課せられている(世界遺産には原則再審査はない)。

そして、糸魚川は貴重な「ヒスイ(翡翠)」の産地である。日本の縄文〜古墳文化を象徴する緑に輝く宝石。プレートが沈み込む地質、つまり糸魚川のような特異な土地でしか産出されない。ヒスイは仏教伝来以降、長く忘れられた存在だったが、昭和に"再発見"され、2016年に日本の「国石」に選定されている。

そんな糸魚川を、僕は通過してきた<現代の首都・東京><原始日本の首都・諏訪>に続く、<地質的な首都>と捉え、この徒歩の旅のゴールに定めた。この地を地質的首都たらしめる「フォッサマグナ」と「ヒスイ」は、実際に形としてこの目で見ることができる。今回のメインスポットは、ヒスイの生まれ故郷である「ヒスイ峡」と、その先にある東西日本を分ける断層が見られる「フォッサマグナパーク」である。

◆過疎の村にひっそりとかかる吊橋

A1_03366.jpg

渓谷にかかる鉄橋を、一両編成の大糸線がガタゴトと通過していった

A1_03378.jpg

寂れた食料品店に醤油のボトルが2つ、ポツンと残っていた

スタート地点の平岩の町は、姫川沿いの渓谷に沿った立体的な町だ。駅から歩き始めると、川をまたぐ頭上の高架を1両編成の大糸線がガタゴトと通過していった。やっているのかやっていないのか分からない寂れた食料品店と美容室、ガソリンスタンドなどがかろうじてある過疎の村。民家の半分以上は空き家か廃屋に見える。これまでに幾度となく見てきたこうした光景は、今や衰退がはっきりと目に見える日本の地方のステレオタイプと化してしまったようだ。

村に並ぶ色の薄い板張りの木肌が特徴の木造家屋群は、隣の長野県まではあまり見られなかったものだ。乾いた木の香りに日本海側の雪国特有の風情を感じる。そんな町外れに、鉄骨と板張りの構成が美しい古い吊橋がかかっていた。観光ガイドに載せればちょっとした観光スポットになりそうだが、その気配はない。それもそのはず、この橋は、川向うの水力発電所に行くためのもので、現役で実用されているインフラ設備なのである。僕は、観光化された施設や建物よりも、リアルに生きている「ホンモノ」に惹かれる。ここで働く人たちの迷惑にならないように、サッと写真を撮って、余韻に浸りつつ歩を進めた。

A1_03420.jpg

ふと出会った発電所の古い吊橋。現役で実用されているからこそ、ホンモノの風情がある

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル北部の警報サイレンは誤作動、軍が発表

ワールド

イスファハン州内の核施設に被害なし=イラン国営テレ

ワールド

情報BOX:イランはどこまで核兵器製造に近づいたか

ビジネス

マイクロソフトのオープンAI出資、EUが競争法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story