コラム

運動だけでなく社交の場でもあった「心の拠り所」ジムを奪わないで

2021年05月18日(火)20時25分
李 娜兀(リ・ナオル)
スポーツジム(イメージ)

RECEP-BG/ISTOCK

<人付き合いが少ない外国人にとっては特に、スポーツジムは重要なコミュニティー形成の場となっていた>

新型コロナウイルスの影響で失われたものは多い。そして失われてから、それが自分にとってどれだけ大きな存在だったか痛切に感じさせられることが少なくない。

私にとって、そうしたことの1つが自宅近くのジムの閉鎖だ。17年前に通い始め、空気のように当たり前の日常だったジムが、コロナの影響で閉じることになった。受けた衝撃は大きかった。私にとってジムは単に運動する場というだけではなかったからだ。

世界中どこに行っても同じかもしれないが、外国人がその国で気の置けない友人をつくり、その社会にどっぷりと溶け込むのは簡単ではない。アメリカだとキリスト教会が外国人も入りやすいコミュニティーを提供してくれる。

1980年代に父の留学について行って住んだ米中西部では、何か困り事があるたびに教会のメンバーが親身になって助けてくれたことを覚えている。父と母にとって楽しかったアメリカの思い出は、ほとんどその教会との関わりから生まれたものだった。

キリスト教会が少ない日本で、外国人も比較的に入りやすいコミュニティーといえば趣味の世界だろう。アニメやゲーム、コスプレなど、日本発のポップカルチャーの世界を通じて、日本人の友人のネットワークを広げる外国人は少なくないとも聞く。

仕事関係以外の友人をつくれる場

そういったポップカルチャーについていけない私にとって、大学や仕事関係以外で日本人の友人をつくれる場がジムだった。長く通い続けるうちに、同じ時間帯に運動をして、サウナを利用する仲間ができる。そうなれば身の回りの打ち明け話もするようになる。ジムの閉鎖は、私にとって仲間とのつながりが失われることを意味する。

そう思っていたのは私だけではないようだった。このジムの会員には私以外にも韓国人や中国人がいる。4月中旬、ジムで久しぶりに会った中国人の知人は「本当に困るよね。これからどこに行けばいいの、行くところがないよ」とため息をついた。

こうして日本各地で失われたコミュニティーの数は相当数に上るのではないか。ジムだけでも、全国展開する大手が次々に閉鎖店舗を発表した。常連客同士が仲良くなるような飲食店で、閉店を決めたところも少なくないだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story