コラム

世界の銃の半分を所有するアメリカ人、お気に入りの小型ナイフも持ち歩けない日本に思うこと

2021年04月15日(木)11時57分
トニー・ラズロ
岐阜県関市産のナイフ

COURTESY TONY LÁSZLÓ

<伝統的な工芸品でもある小さなナイフでさえ、持ち歩けば拘留される可能性がある日本と銃規制が一向に進まないアメリカ>

妻は岐阜県関市出身。日本刀の制作で有名な町だ。取材の折に、町で受け継がれている伝統的な鍛錬技法である古式鍛錬で作らせてもらった包丁を、今はわが家でチーズや野菜を切るのに使っている。

地元の老舗ナイフメーカーからいただいた折り畳み式のポケットナイフも大切にしている(写真)。これはキーチェーンに付けられるほど小さいもので、これさえあれば、出先でパンやソーセージ、レタスなどを買って、そこら辺のベンチでサンドイッチも作れる。いつでもどこでもプチピクニックができて便利だ。

刃の長さは6センチ以内なので、日本の銃刀法の取り締まり対象ではない。でも、正当な理由なしでナイフを持っていると判断されたら、軽犯罪法に抵触し、拘留されてしまう恐れがあるようだ。

例えば鹿児島県警は次のように警告している。「(刃物や木刀などを)農作業やキャンプなどの行事、素振りなど正当な目的のために使用する予定がないのに携帯することはやめましょう。ツールナイフ等の刃物についても、『アクセサリー感覚』等の安易な理由で携帯しないようにしましょう」

関市のナイフ生産者にとっては死活問題だ。彼らの応援のためにも、またこのくらいの「選択の自由」を確立するためにも、「正当な理由」があるつもりで、あの小さな刃物を携帯したい。でも、いざ警官に止められ、「これは?」と聞かれたら、こちらの説明は果たして理解されるだろうか......。

この件に関しては、たぶん、「空気が読める人」になり、日本の法律や当局が送ってくる「とにかく鋭い物体を持つな」という信号を受け止めたほうが賢いのだろう。

一方、わが故国アメリカ。マッサージ店3カ所で8人が射殺された(ジョージア州、3月16日)。スーパーマーケットでは10人が(コロラド州ボールダー、3月22 日)、オフィスビルでも4人が射殺された(カリフォルニア州オレンジ、3月31日)。2021年、まだ春なのに乱射事件が既に数件起きており、銃による暴力が再び話題になっている。

アメリカで個人が所有する銃の数は3億丁前後だ。総人口は同じくらいで、約3億3000人。1人に1丁。アメリカ人は世界中にある銃の半分弱を所有しているという計算になる。世界の全人口の5%しかいないのに。

最近起きた80件の乱射事件の約4分の1はAR15型の半自動小銃が武器だ。17年にラスベガスで起きた最も恐ろしい乱射事件では、犯人はこれをいくつも使って約10分間で60人を殺し、411人にけがを負わせた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

24年の独成長率は0.3%に 政府が小幅上方修正=

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、ゴールドマン会長・CEO

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story