最新記事

レバノン

レバノンの特権階級は経済危機を否認して国を潰しつつある、と世銀が警告

Lebanese Elite at Fault for Country’s Poverty, and Doing Little to Fix Problem

2022年1月28日(金)15時49分
シャーロット・トラットナー

レバノン南部の村で、暖を取るための薪木を運ぶ親子 Aziz Taher-REUTERS

<金融危機から2年、人口の75%が貧困に落ち、通貨価値は90%下落、インフレ率は145%という国民の苦しみは、特権階級による人災だ>

経済が破綻し、国家の崩壊が秒読み段階に入ったレバノン。この国の政治エリートは、この危機に知らん顔を決め込んでいる、と世界銀行が最新の報告書で痛烈に批判した。

「意図的な不況を意図的に否認する(特権層の)姿勢は、経済と社会に長期に及ぶ傷をもたらしている」と、世銀のマシュレク地域局長Saroj Kumar Jhaは報道発表で語った。「レバノンが金融危機に陥ってから2年になるが、いまだに経済と金融の立て直しに向けた道筋を見いだすことすらできていない」

社会と経済の崩壊を避けたいのなら、政府は最低限、経済再生の道筋を示さなければならないと、Jhaは釘を刺した。

AP通信によれば、レバノンの経済危機が始まったのは2019年10月。以後、人口の75%が貧困層に転落した。加えて、通貨レバノン・ポンドの対ドル相場は90%超も下落。銀行は閉鎖され、再開後も外貨の引き出しが制限されるなど、人々の不安と困窮はピークに達している。

食料を買ったら家賃が払えない

世銀が発表した報告書「壮大なる否認」によれば、今やレバノンのインフレ率は145%に上り、ベネズエラ、スーダンに次いで世界第3位だ。

子供たちが栄養不良ではすまず、餓死に追い込まれる危険性もあると見て、NGOのセーブ・ザ・チルドレンはレバノン政府に国民を困窮から救うよう訴えた。

同NGOレバノン支部の責任者ジェニファー・ムーアヘッドによると、状況は悪化の一途をたどり、レバノン・ポンドの暴落にも歯止めがかからない。

「ガソリン代が高騰し、最低賃金で働いている人は、1カ月の稼ぎを注ぎ込んでも小型車を満タンにできない」と、ムーアヘッドは報道発表で現状を伝えた。「私たちが相談に乗っている親たちは、食料品を買うか、家賃や電気代を払うか、医療費を捻出するか、それとも子供の教育費が先か、わずかな金のやりくりに日々頭を悩ませている」

ロイターの報道によれば、レバノンの経済危機の元凶は歴代の政権の放漫財政だ。膨大な公的債務を抱えたレバノンは2020年3月、デフォルト(債務不履行)に陥った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中