最新記事

中央アジア

次のウクライナに? カザフスタン情勢を、世界がこれほど憂慮する理由を解説

Will Kazakhstan Be Next?

2022年1月12日(水)17時47分
ケーシー・ミシェル(ジャーナリスト)
放火されたアルマトイ市庁舎

カザフスタン最大の都市南部アルマトイのデモで放火された市庁舎 PAVEL MIKHEYEVーREUTERS

<カザフ反政府デモに、ロシアのプーチン大統領が軍の介入を決定。ウクライナとジョージアに続きカザフ北部の併合に乗り出す?>

年明けから、カザフスタンが大混乱に陥っている。燃料価格の高騰に抗議するデモが、流血の事態に発展。前大統領のヌルスルタン・ナザルバエフが権力を握り続けていることに反発する声も、一気に噴き出した。

だが事態の収拾を図るため、カザフスタン政府はロシアに支援を要請。ロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)がカザフスタンに部隊を派遣したことで状況は一変するかもしれない。

それは、見過ごされてきたカザフスタンの「分裂」だ。ロシアが混乱に乗じ、カザフ北部を制圧する恐れがある。ロシアのナショナリスト勢力が以前から狙ってきた地域であり、そこに暮らすロシア系住民は分離独立を夢見てきた。

この10年間、ロシアはあからさまな拡張政策を取ってきた。ただし、これまでの標的はウクライナだった。その一方でナショナリストたちは、カザフスタン北部のかなり広い地域をロシアの領土と見なしていることを隠さず、国境について改めて協議すべきだと主張してきた。

この主張には長い歴史がある。1990年代に入ってソ連が崩壊し、旧ソ連圏の共和国が次々と独立し始めたとき、ロシアのボリス・エリツィン大統領(当時)は従来の境界線がロシアにとって有利とは限らないことに気付いた。

エリツィン政権は91年後半、領土問題への主張を込めた声明を発表した。歴史学者のセルヒー・プロヒーが書いたように、この声明は「国境をめぐる問題は未解決である」という認識を強調するもので、ロシアは「国境の見直しを提起する権利を持つ」とした。

プロヒーによれば、各共和国が独立し始めるとエリツィンは「パニックに陥り、ウクライナとカザフスタンに脅しをかけた。独立を強行するなら国境を見直し、ロシアは一部の地域に対して領有権を主張するというものだった」。

見直し対象に含まれていたカザフ北部

エリツィン政権の報道官は、見直しの対象として4つの地方を挙げた。まずジョージアのアブハジア自治共和国。ここには2008年に実際に侵攻した。次がウクライナのクリミア半島とドンバス地方で、ロシアは14年に侵攻。そして最後が、まだ制圧していないカザフスタン北部だ。この地域はロシア系住民が多数を占めるため、ロシア国内のナショナリスト勢力も領有権の主張に追随した。

カザフスタンは97年、首都を南部のアルマトイから北部のアスタナ(19年にヌルスルタンに改称)へ移した。目的は、北部の分離独立の機運を牽制することだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」据え置き、自動車で記述追加

ビジネス

英総合PMI、4月速報値は11カ月ぶり高水準 コス

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ワールド

中国、原子力法改正へ 原子力の発展促進=新華社
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中