コロナによる「経済危機」は、むしろ社会的弱者に「恩恵」をもたらした
WHY THE PANDEMIC MIGHT NOT BOOST INEQUALITY
労働者不足は深刻化(米フロリダ州のレストラン) MARCO BELLOーREUTERS
<コロナ危機の当初は格差が拡大すると見られていたが、今になって見返すと手厚い保障もあって格差拡大傾向が反転する兆候も>
新型コロナのパンデミックが急拡大し、多くの人々がロックダウンを強いられた2020年春に経済は深刻な不況に陥り、低スキル労働者やマイノリティーの人々が特に打撃を受けた。さらに過去の不況とは対照的に、失業は女性が多い職種に集中し、「shecession(女性不況)」との言葉も生まれた。
そのため、当初の兆候から読み取れたのは、パンデミックの影響で格差が悪化するだろうとの見通しだ。だがその後2年を見る限り、必ずしもそんな状況にはなっていない。
まず、失業や休業などが所得にもたらす悪影響は、ほとんどの先進国では過去最大級の政府支援策で相殺された。アメリカでは多くの世帯に小切手が直接給付され、欧州諸国は雇用を守るため企業を助成した。
こうした対策のおかげで、パンデミック初期の失業が所得低下につながることはなかったようだ。さらに、最も失業リスクの高い層は最も手厚い政府支援を得られた。
結果として、可処分所得を基にした格差指標は悪化していないばかりかわずかに改善している部分もある。アメリカで所得格差を示すジニ係数は20年には非常に大きかったものの、その後拡大はしていない。
この傾向はヨーロッパも同様で、ドイツ、フランス、イタリア、スペインのEU4大国では20年1月からの1年間で所得格差がむしろ縮小したとの研究もある。
格差拡大傾向に反転の兆候が
こうした結果から見えるのは、前代未聞の経済危機から社会的弱者を守る上で、政府が最後のとりでとしての保険事業者の役割を果たし得るという事実だ。だが、アメリカに比べてヨーロッパの経済回復はまだ段階的であるにもかかわらず、政府は支援策を縮小しつつある。これにより、パンデミック以前の格差拡大が再燃するのだろうか。
ここでもやはり、現実はその逆であり、以前の格差拡大傾向はパンデミック後の世界でむしろ反転しそうな兆候が見えている。「女性不況」はせいぜい3~6カ月程度しか継続していないし、(付加価値に占める人件費の割合を示す)労働分配率は20年、21年ともに上昇している。労働分配率は長期にわたって低下してきたが、原因については諸説あった。だが近年の上昇の原因はシンプルで、労働者不足の一言に尽きる。
盛んに唱えられている「ビルド・バック・ベター(より良い再建)」という言葉にも語弊がありそうだ。コロナ禍はいかなる資本も損なわず、単に短期間の機能停止状態をもたらしただけだった。それ故、回復には新たな資本は必要なく、既にあった資本を再配置すればよいだけだ。