最新記事

軍事

中国「サラミ戦術+ドローン」が台湾を挑発する

TAIWAN ON THE BRINK?

2022年1月8日(土)10時45分
トビアス・バーガーズ(慶應義塾大学サイバー文明研究センター特任助教)、スコット・N・ロマニウク(カナダ・アルバータ大学中国研究所フェロー)
中国の無人戦闘機「彩虹6」

中国は広東省の航空ショーで無人戦闘機「彩虹6」を披露(2021年9月) ALY SONGーREUTERS

<台湾のADIZ(防空識別圏)侵入を繰り返す中国空軍。無人機(UAV、UCAV)が導入される可能性は高いが、そうなれば一気に中台紛争の危険度が増す>

中国軍機が最近、台湾のADIZ(防空識別圏)に侵入を繰り返している。この問題にさまざまな議論が出るなかで、特に注目されたのが英字紙・台北時報の社説だ。

同紙は、中国軍の頻繁なADIZ侵入によって台湾軍が神経をすり減らしていることから、台湾は中国軍機の侵犯を監視するために無人航空機(UAV)の開発・配備をさらに進めるべきだと主張した。

台北時報は、UAVは有人の戦闘機より費用対効果と安全性が高いと主張。さらに付加的な利点として、中国空軍にとってのリスクが増すとしている。

「人民解放軍が台湾領空でUAVを撃墜すれば、国際社会から一方的な攻撃、場合によっては戦争行為と見なされ得る」というのだ。

だが中国空軍が突然、台湾のUAVを撃墜する判断を下すとは考えにくい。中国は台湾への圧力を強めているが、あからさまな戦争行為に出る兆候は見られない。

むしろADIZ侵入の目的は軍事演習や、何らかの政治的意図だと思われる。

実際、中国軍機による侵入は、台湾が他国の代表団を迎えたときや、中国と台湾の重要な記念日に合わせて行われることが多い。

とはいえ、中国のADIZ侵入にUAVで対抗する案に検討の価値はある。だがUAVを先に配備するのは台湾ではなく、中国だろう。

近いうちに、中国がADIZ侵入にUAVを使うケースが増えるとみられる。

事実、中国は新型のUAVや無人戦闘機(UCAV)の開発・試験・運用を積極的に行っている。

広東省珠海での航空ショーで展示された無人戦闘機「彩虹6(CH6)」は、台湾海峡での軍事作戦を想定したものだと、北京を拠点とする軍事アナリストの宋忠平(ソン・チョンピン)は指摘する。

英国際戦略研究所(IISS)のフランツシュテファン・ガディは、中国の軍事作戦でUAVとUCAVの重要度がいかに高まっているかを分析した。ガディが使ったシナリオは、中国が2028年に台湾およびアメリカと衝突し、そこでUAVとUCAVを投入するというものだった。

しかし中国がUAVなどを最初に投入するのは、台湾をめぐる大規模な戦闘ではなく、台湾のADIZ侵入のような小規模で本格的な作戦である可能性が高い。

中国空軍はUAVなどを作戦に使うため、場数を踏もうとするはずだ。その意味でADIZ侵入は絶好の機会となる。

UAVなどを台湾との紛争で投入するため、中国空軍は平時の作戦で経験を積みたい。ADIZ侵入は「グレーゾーン戦略」(平時でも戦時でもない状態での作戦)だと言える。

【関連記事】中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売は年内1700万台に、石油需要はさらに

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中