最新記事

北朝鮮

北朝鮮は「地上の楽園」と騙されて帰国し「過酷な生活」を強いられた被害者たちが金正恩を訴えた

5 People Demanding $900K Each from Kim Jong Un

2021年10月15日(金)16時42分
アナ・カールソン
北朝鮮帰国事業裁判原告団

金正恩を相手取り、日本で訴訟を起こした原告団 South China Morning Post-YouTube

<戦後、9万人以上の在日朝鮮・韓国人が北朝鮮に渡ることになった帰国事業を、その後脱北して日本で暮らす原告は「国家的誘拐」と主張。北朝鮮に残る家族と自由に往来できる日のために闘うという>

戦後の「北朝鮮帰国事業」で日本から北朝鮮に渡り、その後脱北して日本で暮らしている男女5人が、北で過酷な生活を強いられたなどとして、北朝鮮の最高指導者である金正恩を相手取り、1人あたり90万ドル(1億円)の賠償を求める裁判を起こした。


帰国事業は、北朝鮮が朝鮮戦争で失った労働力を補充するなどの狙いから、在日朝鮮人を北朝鮮に帰国または移住させた取り組みだ。対象とされた在日朝鮮人の多くは韓国出身者だった。北朝鮮は当時、移住者に「無償の医療・教育、雇用と幸せな生活」の提供を約束して、事業を推し進めた。

しかし5人の原告は、これらの約束は守られなかったと主張。原告のひとりである川崎栄子によれば、北朝鮮に渡った者たちには、炭鉱や農園での肉体労働が割り当てられたという。

現在79歳の彼女は、10月14日に行われた審理の後、記者団に対して「北朝鮮では43年間にわたってショックと悲しみ、そして恐怖の中で暮らしていた」と語った。

「地上の楽園」での生活を約束されて北朝鮮に渡った5人の原告は、帰国事業は詐欺であり、国家的な誘拐行為だったと主張した。

以下にAP通信の報道を引用する。

「闘いは始まったばかり」

原告の代理人弁護士である福田健治によれば、今回の審理は、東京地裁が8月に金正恩を被告として呼び出すことに同意したことを受けて実現した。しかし原告側も、金正恩が実際に出廷したり賠償金を支払うとは思っていない。それでも福田は、原告側の訴えを認める判決が下されれば、日本政府が将来、北朝鮮の責任を追究したり、国交正常化の交渉をする際の材料になると期待を寄せている。

「日本に生きて帰ることができたのは奇跡だと思っている」と川崎は述べ、自分のつらい体験について法廷で聞いてもらうことができて嬉しかったと語った。

「でもこれはゴールではなく、北朝鮮との闘いのはじまりにすぎない」と彼女は述べた。「帰国事業で北朝鮮に渡った全ての人が自由に日本と行き来ができ、家族とも会える日が来るまで、闘い続けていく」

福田は、原告に代わって14日の審理について説明。北朝鮮がいかに不法かつ組織的に5人の原告を騙して移住させたかを示し、裁判所の判断を、日本政府に対してこの問題の外交的解決を要請する際の法的根拠としたいと述べた。

脱北して日本に帰国した5人の原告――4人は朝鮮人で1人は朝鮮人の夫と娘と共に移住した日本人女性――は2018年に裁判所に提訴を行い、3年を経て今回ようやく審理が行われた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中