最新記事

世界経済

法人税の最低税率15%で各国が合意──不毛な税率引き下げ競争に終止符?

Seeking to Boost Post-Pandemic Revenue, 136 Countries OK Corporate Tax Rate

2021年10月11日(月)18時16分
ゾーエ・ストロズースキ
イエレン米財務相

今後アメリカは、税率の低さではなく労働者の質と技術革新で企業を誘致すると言うイエレン(9月30日、下院財務委員会) Al Drago/Pool-REUTERS

<欧州の「タックスヘイブン」アイルランドも国際ルールを承認。発効すれば、これまで課税を逃れてきたハイテク大企業にも各国が課税できるようになる>

経済協力開発機構(OECD)は8日、大手多国籍企業に対する法人税の最低税率を15%とする国際的な課税ルールの導入で世界136カ国・地域が合意したと発表した。AP通信が伝えた。

これにより、136カ国・地域合わせて約1500億ドルの税収増が見込まれる。また、最低税率が同じになることで、多国籍企業が税率の低い国に拠点を移す動きに歯止めがかかることも期待されるとAPは伝えている。

今回の合意に向けて主導的役割を果たした1人がアメリカのジョー・バイデン大統領だ。ジャネット・イエレン米財務長官は、大企業の誘致を狙った各国の法人税率の引き下げ競争に終止符が打たれるだろうと述べた。

「アメリカは今後、法人税を引き下げる力ではなく、労働者の技能や技術革新をもたらす能力で(各国と)競うことになる。アメリカに勝ち目のあるレースだ」とイエレンは声明で述べた。

ただし、実際の導入までにはいくつかのハードルも予想される。最大手の多国籍企業の中にはアメリカ企業が多く含まれることから、カギとなるのはバイデンが提案している税制関連の法案の行方だ。議会で否決されるようなことがあれば、今回の枠組み全体の成否にも関わる可能性がある。

以下は、AP通信の報道からの引用。

グーグルなどIT大手も支持

今回の合意は、グローバル化やデジタル化が世界経済を大きく変えてきたことへの1つの対処と言える。最低税率に加え、ネットショップやウェブ広告といった事業で利益を上げているものの国内に物理的な拠点を持っていない企業の課税逃れを阻止することも可能になる。

グーグルやアマゾンといったアメリカの巨大IT企業は今回の合意を支持している。理由の1つは、一部に導入の動きが出ていたデジタルサービス税の撤廃に各国が応じたことだ。その代わり、各国は国際的な枠組みの下、巨大IT企業の売上の一部に課税する権利を手にする。

これにより、企業も国ごとに異なる税制に対応する必要がなくなり、国際的に統一された課税ルールに従えばいいことになる。

「この合意は21世紀の真の税制革命に道を開くものだ」とフランスのブリュノ・ル・メール財務相は述べた。「ついに巨大デジタル企業も、各国で利益相応の税金を負担することになる」

グーグルやフェイスブックといった企業は、法人税の安さから欧州での拠点をアイルランドに置いていた。だが7日、アイルランドはこれまでの政策を転換、合意に参加することを表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スー…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中