最新記事

中国

中台TPP加盟申請は世界情勢の分岐点──日本は選択を誤るな

2021年9月25日(土)16時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
TPP(CPTPP=TPP11)

中国と台湾が加盟申請をしているTPP(CPTPP=TPP11) RODRIGO GARRIDO-REUTERS

中国に続いて台湾もまたTPP加盟申請を正式に表明した。中国は米軍のアフガン撤退を受け勢いづきイランをも味方に付けて勢力圏を増やそうとしている。中台の受け入れ可否は世界情勢を決定する。日本は選択を誤るな。

習近平はなぜこのタイミングを狙ったのか

習近平国家主席は昨年11月にTPP(正確にはCPTPP=TPP11)への加入意向を表明した。正式発表のチャンスを狙っていたと思うが、9月16日に正式に加入申請手続きに入った。

このタイミングを選んだ最大の大きな理由として9月6日のコラム<タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年>を挙げることができる。

米軍がアフガニスタンから引き揚げ、アフガニスタンがアメリカによる統治から逃れる日が来るのを、習近平は周到な計画の下で進めていた。

ロシアのプーチン大統領に協力を求め、上海協力機構を最大限に利用した。

こうして米軍のアフガン撤退とタリバン政府樹立に成功し、返す刀でイランを上海協力機構に入れている。9月16日にタジキスタンの首都ドゥシャンベで第21回上海協力機構首脳会議が開催され、それまでオブザーバー国として参加していたイランの正式加盟が認められた。

中国が正式にTPP加盟申請をしたのは、この同じ「9月16日」であることに注目しなければならない。

アフガニスタンのタリバン政府が中国に改めて「一帯一路」加盟確認をしたのは9月2日のことだ。「改めて」と書いたのは、実はアメリカの統治下にあったアフガニスタン傀儡政権もまた、2016年に中国と「一帯一路」協力に関して「備忘録」の形で参加表明していたが、実質を伴っていなかった。したがって実質を伴う形で入りたいとしてタリバン暫定政権は中国に「一帯一路」の継続申請を改めてしたのである。

さて、この二つの出来事から、中国がなぜ9月16日をTPP加盟申請日として選んだかを確認するために、以下の勢力図マップをご覧いただきたい。

まず、アフガニスタンから米軍が撤退したことによって、「一帯一路」がどのようにスムーズにつながり、中国の勢力圏に入っていったかを図表1で示す。

図表1:米軍のアフガン撤退後の「一帯一路」勢力図
(赤:中国/薄い赤:加盟国)
endo20210925121001.jpg

出典:パブリック・ドメインの世界地図に基づいて筆者が作成

ユーラシア大陸は途切れることなくつながり、「一帯一路」は世界を網羅している。

図表2では、中露を中心とした上海協力機構が次々とメンバー国を増やし、特にイランが加盟したことにより反米色を強くしていることを示している。

図表2:イランが正式メンバーになった後の上海協力機構
(赤:中心となった中露/薄い赤:中露以外の正式メンバー国/
緑:オブザーバー国/紫:対話パートナー/水色:客員参加)
endo20210925121002.jpg

出典:パブリック・ドメインの世界地図に基づいて筆者が作成

上海協力機構は中国とロシアが中心となって構築した機構なので、中国とロシアを真紅で色分けし国名も入れたが、他の薄い赤のメンバー国の国名を全て入れると煩雑になるので、9月16日に正式に加盟した「イラン」と、本稿の最後に論じる日米豪印4ヵ国が協力するQUAD(クワッド)の中の「インド」の国名だけを書いた。不均一になるかもしれないが、ご理解いただきたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中