最新記事

テロ

新たな超大国・中国が、アメリカに変わるテロ組織の憎悪の標的に

China Is the New Target

2021年9月9日(木)17時02分
アブドゥル・バシト(南洋理工大学研究員)、ラファエロ・パンツッチ(英王立統合軍事研究所の上級研究員)
パキスタンの中国総領事館

2018年11月にはパキスタン最大の都市カラチにある中国総領事館が襲撃を受けた AKHTAR SOOMROーREUTERS

<中国人を標的にした襲撃が相次いでいる。大国の地位と新植民地主義への反発以外にも、テロ組織には中国を狙う別の目的が>

スーパーヒーローの責任はスーパーに重い。かの「スパイダーマン」はそう言っていた。そのとおり。だがスーパー大国には、スーパーな敵意や憎悪も向けられる。

アメリカ人なら痛いほど知っているこの教訓を、今度は中国が学ぶ番だ。数年前から、パキスタンでは中国人や中国の権益が絡む施設に対するテロ攻撃が繰り返されている。パキスタン・タリバン運動(TTP)のようなイスラム過激派や、バルチスタン州やシンド州の分離独立派の犯行とみられる。

この8月20日にも、バルチスタン解放軍(BLA)が南西部グワダルで中国人の乗る車両を攻撃する事件が起きた。BLAは2018年11月に最大都市カラチの中国総領事館を襲撃したことで知られる。

中国が今後、世界中で直面するであろう現実の縮図。それが今のパキスタンだ。中国が国際社会での存在感を増せば増すほど、テロ組織の標的となりやすい。中国がアフガニスタンのタリバンに急接近しているのも、あの国が再びテロの温床となるのを防ぎたいからだろう。しかし歴史を振り返れば、中国の思惑どおりにいく保証はない。

2001年9月11日のアメリカ本土同時多発テロ以前にも、中国は当時のタリバン政権と協議し、アフガニスタンに潜むウイグル系の反体制グループへの対処を求めたが、タリバン側が何らかの手を打った形跡はない。

中国政府が最近タリバンと結んだとされる新たな合意の内容は不明だが、イスラム教徒のウイグル人をタリバンが摘発するとは考えにくい。むしろ、この地域における中国の権益の保護を求めた可能性が高い。

中国人労働者はイスラム法を守るか

首都カブールだけでなく、今のアフガニスタンには大勢の中国人労働者や商人がいる。しかし彼らが厳格なイスラム法(シャリーア)を理解し、順守するとは思えない。その場合、タリバンは中国人の命を守ってくれるだろうか。今や超大国となった中国を敵視するテロリストの脅威を封じてくれるだろうか。

グワダルでの8月20日の襲撃の前月にも、カイバル・パクトゥンクワ州のダス水力発電所で中国人技術者9人が襲撃され、死亡する事件が起きている。直後にはカラチで中国人2人が別のバルチスタン分離独立派に銃撃された。

3月にはシンド州の分離主義組織に中国人1人が銃撃されて負傷。昨年12月にも同様の事件が2件起きている。さらに今年4月には、バルチスタン州で駐パキスタン中国大使がTTPに襲撃され、間一髪で難を逃れる事件も起きた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中