最新記事

AUKUS

中国に断固対処する決意の表れ「AUKUS」、成功のカギを握るのはインド

India Welcomes AUKUS Pact

2021年9月22日(水)17時55分
C・ラジャ・モハン(シンガポール国立大学南アジア研究所所長)
米バイデン大統領

米英豪はインド太平洋における新たな3カ国同盟を発表(9月15日) WIN MCNAMEE/GETTY IMAGES

<日印抜きの新たな軍事協力の枠組みは、核の傘でも核拡散でもない第3の道をインド太平洋に開く可能性が>

インド太平洋の新しい安全保障協力の枠組みが、有力な「当事国」であるインドと日本抜きで発表された。アメリカとイギリスとオーストラリアの頭文字を取ったAUKUS(オーカス)である。

その最大の目的は、オーストラリアが原子力潜水艦の艦隊を構築することを、アメリカとイギリスが支援すること。人工知能(AI)や量子コンピューティング、サイバー分野などの軍事利用でも協力を模索していくという。

多くの理由から、インドはこの合意を歓迎するべきだ。

原潜には並外れたステルス性とスピード、耐久性があり、アメリカはイギリス以外にその技術を供与してこなかった。そこにオーストラリアを加えることにしたのは、中国の脅威に断固対処するという、アメリカの強い政治的決意の表れだ。中国との間で緊張が高まっているインドにとって、自らが参加していようがいまいが、中国を抑止する措置は戦略的にプラスとなる。

インドではAUKUSを見て、2007年にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が、インドに民生用原子力技術を提供する協定に合意したのを思い出す人も多い。それは米印関係の転機となり、両国の戦略的利益を調和させ、最終的にはインドがクアッド(日米豪印戦略対話)に参加する助けになった。

AUKUSが、オーストラリアの軍事力を大幅に高めるのは間違いない。もちろん、オーストラリアの原潜がインド太平洋を航行するようになるのは、まだ先だろう(2030年代になる可能性もある)。だがそれは、インドの戦略的パートナーがこの地域の安全保障により活発に関わり、パワーバランスの維持に貢献することを意味する。

AUKUSには参加せずとも恩恵が

近年、インドはカシミール地方の係争地で中国と小さな衝突を繰り返してきた。このためインド政府は、中国がもたらす陸からの脅威に対応するのに忙しく、海からの脅威については、(既に一定のレベルはある)海軍力の増強よりも、幅広い同盟の構築に力を入れてきた。インド自身は参加していなくても、AUKUSはこの努力に一致する。

ただ、AUKUSは問題も引き起こした。アメリカから原子力推進技術を得ることにしたオーストラリアが、フランスと既に結んでいた従来型潜水艦の調達契約を破棄したのだ。当然、フランス政府は激怒した。

フランスはこれまで、積極的にインド太平洋の安全保障に関与し、懐疑的なヨーロッパ諸国の目を極東に向けさせてきた。それだけに、オーストラリアの決断を「裏切り」と受け止めても無理はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅続落、米金利上昇や中東情勢警戒 「過

ビジネス

午後3時のドルは154円前半で高止まり、34年ぶり

ビジネス

台湾TSMC、1─3月純利益は5%増か AI半導体

ビジネス

第1四半期の中国GDPは予想上回る、3月指標は需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中