最新記事

ミャンマー難民

「帰国拒否」へ反発、おかしくない?──ミャンマー代表選手の難民申請

2021年6月29日(火)20時25分
志葉玲(フリージャーナリスト)
ミャンマー軍に抗議する人々

2022 FIFA W杯アジア2次予選会場(千葉市)周辺でミャンマー軍に抗議する人々 Issei Kato-REUTERS

<母国でクーデターを起こした軍部に日本から抗議の意を示した後、命の危険から帰国せずに日本で難民申請をしたサッカーのミャンマー代表選手に心ないコメントが殺到>

サッカーのワールドカップ2次予選に参加するため、先月来日したミャンマー代表ピエリヤンアウン選手は試合時に、母国でのクーデターに抗議の意を示して三本指を掲げるジェスチャーを行った。その後、ミャンマーに帰国すれば迫害の恐れがあるとして、日本政府に庇護を求め、今月16日に難民認定申請を行った。これに対し、Yahoo!ニュースコメント(ヤフコメ)等ネット上ではピエリヤンアウン選手を批難するようなコメントが相次ぎ、一部のメディアでもそうした意見を取り上げている。難民受け入れの無理解や、差別の根深さを感じさせるものであるが、日本は難民条約に加盟しており、条約上の義務を果たす責任がある。

ネット上での心無い書き込み相次ぐ

先月28日、千葉県で行われたワールドカップ2次予選での日本対ミャンマーの試合で、

ピエリヤンアウン選手はキックオフ前の国歌斉唱の際に、三本指を掲げた。これは、今年2月にミャンマーで発生したクーデターに抗議する民主化運動の象徴的なジェスチャーであり、ピエリヤンアウン選手の指には「WE NEED JUSTICE」(私達は正義を求める)と書かれていた。国際的な注目を浴びるW杯で集まったメディアの前での抗議は、ミャンマー国軍の逆鱗に触れただろうことは確実で、在日ミャンマー人やミャンマー情勢に関心を持つ日本の人々の間でも、ピエリヤンアウン選手への迫害を懸念する声は高まっていたのだ。

今月16日、ピエリヤンアウン選手は帰国の便に乗らず、日本政府に庇護を求め、難民申請を行う意向を明らかにした。筆者もほっと胸をなでおろしたのだが、関連報道へのヤフコメでピエリヤンアウン選手への心無い書き込みが多数あり、現地情勢や難民受け入れの無理解、差別の根深さに、思わず頭を抱えた。

ヤフコメでの本件に関する否定的な書き込みで、多く見たものとして「三本指を掲げただけで難民?」というものがある。上述したように三本指を掲げることは、クーデターに抗議するジェスチャーだ。クーデター発生後、ミャンマーでは人気俳優やモデル、歌手等、著名人達が次々と三本指を掲げクーデターに抗議したが、ミャンマー国軍はこうした著名人達を次々に逮捕したり、指名手配したりしている。また、逮捕された民主化活動家達は激しい拷問を受けており、その挙げ句に殺された事例もある。

ピエリヤンアウン選手はW杯予選という衆目集まる場でミャンマー国軍へ抗議したのだから、日本の難民認定審査において重視される個別把握論*(難民認定申請者を迫害する側が、個人として特定し、迫害の対象にしているということ)で、迫害の危険性が高いと評されるべきだろう。

*個別把握論を重視する日本の難民認定審査については、現地政府の逮捕令状を求める等、難民認定申請者に迫害の恐れについての過大な立証責任を求めており、「灰色の利益」を認める国連難民高等弁務官事務所の難民審査基準に比べ、厳しすぎるとの批判がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中