最新記事

ナショナリズム

国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

Hundreds of Chinese Academics Who Participated in Japan's Foreign Exchange Program Labeled as 'Traitors'

2021年6月9日(水)17時46分
エマ・メイヤー
習近平

「暴徒化」の一因は中華民族を称揚する習近平にもある Carlos Garcia Rawlins-REUTERS

<中国の極端な被害妄想の例として香港紙が報じた。この調子では日中文化交流もできなくなる>

中国におけるナショナリズムが極端な次元に至ったとして6月8日付のサウスチャイナ・モーニング・ポスト(以下ポスト紙)は、国際交流プログラムで日本を訪ねた中国人の知識人たち数百人が、最近その存在に気づいた反日の徒によって中国のソーシャルメディア上で攻撃の標的にされ、裏切り者の呼ばれていることを報じた。

日本の外務省所管の国際交流基金が費用を負担する訪日旅行は、日本の芸術や文化、日本や日本語を学びたい知識人たちに人気がある。同基金のウェブサイトには、この基金の目的は「日本とほかの国/地域の人々の相互理解を深める」ことにあると書かれている。運営費は、政府の補助金や民間の寄付、投資収益で賄われているという。

だが中国のネット上では今、このプログラムに参加して中国から日本に招かれたと記録が残る200人近い旅行者や研究者が、「裏切り者」として槍玉に挙がっているというのだ。

中国版ツイッターの「ウェイボー(微博)」では、中国人作家の蒋方舟(ジアン・ファンジョウ)が日本へ渡り、日本での経験を綴った本を出版したことが、日本のプロパガンダであるとして批判された。

あるユーザーは、「(蒋方舟は)日本政府から金をもらい、日本をほめそやそうとした裏切り者」と書いている。

中国の孔子学院はどうなる

2017年に出版された蒋方舟の著書『東京一年』(中信出版社)は、日本での経験を綴った回想録だ。「この本は、(日本で)ひとり暮らしをしていたときの経験を記録したもので、ほとんどは、心の動き、旅の体験、文芸批評だ」という蒋方舟の言葉を、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙は引用している。

蒋方舟は、前述のウェイボー・ユーザーへの反応として、この旅は「ごく普通の文化交流」だったと述べ、日本の外務省から金を受けとったことを全面的に否定した。

ポスト紙によれば、中国の一部のアナリストは、中国におけるナショナリズムの高まりによって中国の国際交流がダメージを受けている面もあると指摘している。

中国海洋大学の国際関係学教授、中英はポスト紙に対し、中国も独自の国際交流プログラムを運営していることを考えれば、交流プログラムに対する攻撃は、日本との関係だけでなく、中国の外交関係も損なうことになると指摘している。

「これを日本の陰謀と言うことはできない。中国は日本で『孔子学院』を運営している」と、中英は言う。孔子学院とは、中国語や中国文化の教育と宣伝を目的として中国政府が国外に設立している教育機関のこと。「(立場を逆にしたら)なんと言われるだろうか? また、中国国民が日本へ行き、日本で中国のよいところを伝えることは、国として奨励されている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

24年の独成長率は0.3%に 政府が小幅上方修正=

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、ゴールドマン会長・CEO

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中