最新記事

ミャンマー

スーチー率いる民主派の「新憲法」が無駄ではない理由

2021年4月6日(火)07時00分
セバスチャン・ストランジオ
ミャンマーのクーデター反対デモ

弾圧が激化の一途をたどるなか、市民は座り込みなどで抵抗を続ける UGC-REUTERS

<NLD議員らが設置した臨時政府が現行憲法の廃止を宣言し、「連邦民主憲章」を発表。内戦勃発すら懸念される今、これで状況が変わるとは思えないが、実は大きな意味を持つ>

クーデターで実権を掌握した国軍への抵抗を続けるミャンマーの民主派が「統一政府」樹立の計画を発表。「暫定憲法」を制定し、2008年に国軍が起草した現行憲法の廃止を宣言した。

国軍と民主派の対立激化は避けられず、内戦の勃発すら懸念されている。

新政権樹立に向けて動きだしたのはアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設置した事実上の臨時政府、「連邦議会代表委員会(CRPH)」だ。

3月31日夜、現行憲法の廃止を宣言し、フェイスブックで暫定憲法として「連邦民主憲章」を発表した。

憲章に添えられた宣言によると、CRPHが目指すのは「独裁の根絶」と「全ての市民が平和に暮らせる」民主国家の樹立。多様性の尊重をうたい、少数民族の要求にも応じる構えを見せている。

折しも治安部隊の暴力的な弾圧で多数の市民が犠牲になる一方、東部のカイン(旧カレン)州と北部のカチン州では国軍と少数民族の武装組織の戦闘激化が伝えられている。

憲章の草案作りには少数民族組織と市民団体も加わった。CRPHの国連特使を務めるササ医師は憲章の発表に合わせ、「新しい時代の幕開けだ!」とツイートした。

現行憲法は2008年5月、大型サイクロンで甚大な被害が出た直後に強行された国民投票で「圧倒的な支持」を得たとして制定された。連邦議会の議席の4分の1を軍人枠とするなど、国軍の政治的権限を維持する内容で、クーデター正当化の根拠ともなっている。

クーデターの直後にデモ参加者が求めていたのは「準民主的な政権」への回帰だった。だがこの2カ月余り軍事政権による見境のない弾圧が続くなかで、現行憲法を廃絶して国軍が政治に口出しできないようにすべきだとの声が高まった。

ミャンマーの人口約5400万人の3分の1は多様な少数民族が占める。これらの少数民族と、多数派のビルマ人が主導する連邦政府および国軍との間には深い亀裂と相互不信が横たわっている。

CRPHは憲章を通じて、この分断を克服する決意も示した。

軍政は手段を選ばず抗議デモをつぶす構えを見せており、憲章を発表したところで状況が直ちに変わるとは思えない。それでもこの動きは象徴的には大きな意味を持つ。

CRPHは憲章を通じて市民の不服従運動に共闘するよう少数民族の武装組織に呼び掛けている。そこには多くの勢力を結集させ暫定憲法を制定すれば、国際社会が統一政府を正式な政府として認めてくれるとの読みもありそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中東情勢深く懸念、エスカレーションにつながる行動強

ワールド

ウクライナ中部にロシアミサイル攻撃、8人死亡 重要

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、全員無事 警

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中