最新記事

WTO

暴走する中国の今後を左右するWTO事務局長選 米次期政権はどう向き合うべきか?

2020年12月2日(水)11時50分
クレイグ・シングルトン(元米外交官)

中国などが推すオコンジョ・イウェアラ(左)とトランプ政権が推す兪 FROM LEFT: LUCAS JACKSON-REUTERS, YONHAP NEWS/AFLO

<次期事務局長選のポイントは、国際貿易ルールを破り続ける中国の責任を追及し、実効性ある改革を推進できる候補であるかが重要に>

この数カ月、米大統領選に世界の関心が集まる一方で、もう1つの重要な選挙はほとんど注目されていない。それは、前任者の退任に伴い3カ月間空席となっているWTO(世界貿易機関)の次期事務局長選びである。問われているのは、中国の国際貿易ルール破りに対抗するために、実効性あるWTO改革を推進できるかという点だ。

国際貿易システムは、長らく機能麻痺に陥っている。トランプ米大統領は2度の大統領選で既存の貿易システムを口汚く批判し、中国のWTO加盟によりアメリカで莫大な数の雇用が脅かされたと訴えた。これは、決して的外れな主張ではない。実際、中国は外国の企業や製品を差別的に扱い、外国企業に知的財産の移転を強要するなどしている。

中国の台頭はさまざまな面で国際システムの欠陥を浮き彫りにした。WTOも例外ではない。WTOの紛争解決システムは、中国の行動を是正するのに有効とは言い難い。

しかも、現行のWTOの制度では、ある国が先進国か途上国かの判断を自己申告に委ねている。中国はこれを利用して、世界第2位の経済大国でありながら「途上国」を名乗り、途上国向けの優遇措置を受け続けている。

そこで、WTOの次期事務局長選が大きな意味を持つ。WTOの事務局長選は、加盟国の全会一致が原則。候補者は2人に絞られている。ナイジェリアのンゴジ・オコンジョ・イウェアラ元財務相と韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長だ。現時点で多数の国が推しているのはオコンジョ・イウェアラだが、トランプ政権は兪を支持していて、全会一致が形成できていない。

兪が韓国の通商交渉責任者として中国に強い姿勢で臨んできたのに対し、オコンジョ・イウェアラには中立性の面で懸念の声も上がる。ナイジェリアは、インフラ整備のために巨額の融資を受けるなど、中国と複雑な経済的関係があるからだ。

アメリカの次期政権は、どのように行動すべきなのか。

まず、トランプ政権の方針を覆すことを優先させて行動することは避けたほうがいい。2人の候補者の両方と面談し、WTO改革へのビジョンと、中国が国際貿易システムをゆがめていることへの見解を問いただすべきだ。

オコンジョ・イウェアラは、貿易ルールを守らない中国のような国の責任を問う姿勢を鮮明にしなくてはならない。それを受けて中国のオコンジョ・イウェアラ支持の姿勢に変化があれば、中国が貿易ルールの徹底を恐れていることが露呈する。

オコンジョ・イウェアラの姿勢が不十分だと判断できれば、米次期政権は兪への支持を各国に呼び掛けるべきだ。それにより中国を孤立させ、誠実に交渉する意思がないことをはっきりさせればいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ前米大統領、麻生自民副総裁と会談=関係者

ワールド

北朝鮮「圧倒的な軍事力構築継続へ」、金与正氏が米韓

ビジネス

中国人民銀、国債売買を政策手段に利用も=高官

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中