最新記事

世界貿易

RCEPは「中国のクーデター」と危機感を強めるアメリカ、世界貿易の欧米離れを止められるか

The World’s Largest Trade Agreement Doesn’t Include the United States

2020年11月17日(火)17時25分
エイミー・マッキノン

世界最大級の市場がアジアに誕生した REUTERS/Kham

<トランプがぶち壊してきた多国間貿易の枠組みを見直し、CPTPPへの復帰を再考せざるを得なくなる>

11月15日、アジア太平洋地域の15カ国が世界最大規模の貿易協定に署名した。これにより、世界貿易の欧米離れと東アジアへのシフトがさらに加速すると予想される。この東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、2012年に中国の提唱によって始まり、その後なかなか交渉が進まなかったが、ドナルド・トランプ米政権が貿易保護主義を追求したことで、早期妥結の必要に迫られていた。アメリカはRCEPに参加していない。

RCEPでは、今後20年をかけて関税が段階的に撤廃され、税関手続きが円滑化される。域内の数多くの二国間貿易協定の代わりとして、ひとつの決まりの下に貿易を行えるようになる。RCEP経済圏は世界の人口およびGDP(計26兆2000億ドル規模)の約30%を占め、この成立により世界最大の自由貿易圏が誕生したことになる。

ピーターソン国際経済研究所の推定によれば、RCEPにより2030年までに世界のGDPは1860億ドル増加し、中国、韓国と日本が他の加盟国よりも大きな利益を得る見通しだ。日中韓のほかにオーストラリア、ニュージーランド、およびASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟10カ国(ベトナム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイとブルネイ)がRCEPに加盟している。インドは2019年まで交渉に参加していたが、中国製品の流入が国内市場に打撃をもたらすことへの懸念から参加を見送った。

注目される外交的な意味合い

既存の地域貿易協定によって既に関税が引き下げられていることから、RCEPの成立で貿易面にすぐに大きな変化が見られることはないだろうとアナリストらは指摘する。だが中国政府がアジア太平洋地域での影響力増大を狙うなか、RCEP成立の地政学的な意味合いを過小評価すべきではないだろう。シティリサーチは15日付の報告書の中で、「RCEPの持つ外交的な意味合いは、経済的な意味合いと同じぐらい重要なものかもしれない。これは中国によるクーデターだ」と指摘した。

トランプ政権は過去4年をかけて、アメリカの長年の貿易政策を撤回し、各種国際協定を破棄し、追加関税を導入。2017年には、バラク・オバマ前政権のアジア回帰政策の一環でもあり、世界最大の自由貿易圏となるはずだったTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱した。アメリカを除くTPP参加国はこれを受けて、2018年に包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)に署名した。中国はこのCPTPPに参加していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中