最新記事

2020米大統領選

バイデン勝利にラティーノ票の不安 民主党がハートをつかみきれない訳

THE FIGHT FOR THE LATINO VOTE

2020年10月16日(金)17時15分
エイドリアン・カラスキーヨ(本誌政治担当記者)

magw201014_Biden3.jpg

ラティーノ社会はコロナ被害が深刻(携帯用PCR検査キット) BEN HASTY-MEDIANEWS GROUP-READING EAGLE/GETTY IMAGES


なぜ支持が伸びないのか。「みんな生活苦とコロナへの不安で頭がいっぱいで、大統領選どころではないのだろう」と言うのは、テキサス州選出の下院議員ホアキン・カストロだ。それでも「彼らがバイデンを支持していないわけではない」と、民主党の広報室に勤務した経験もあるクリスチャン・ラモスは言う。「だがバイデンの声が彼らに届き、彼らを動かせるかどうかは疑問だ」

前上院院内総務のハリー・リードを含む陣営の幹部は以前から、まだラティーノ有権者のハートをつかめていないと警告してきた。ラティーナ(中南米系の女性)で初めて上院議員となったキャサリン・コルテス・マストを含むネバダ州選出の民主党議員たちも、陣営による配慮の不足に懸念を表明したという。

もちろん、ラティーノも一枚岩ではない。出身国によって文化は異なるし、移住の経緯も異なる。日常的に英語を使う人もいれば、スペイン語の人もいる。同じラティーノでもメキシコ系の多い南西部ではバイデン支持が多いが、南東部のフロリダではキューバ系の存在感が高く、彼らは極めて保守的だ。またプエルトリコ系は基本的に民主党支持だが、2016年にも18年にもキューバ系より投票率が低かった。

侮れない偽情報の破壊力

フロリダではラティーノが有権者の20%を占めている。元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグは先頃、反トランプの立場から、フロリダでのバイデン支持を盛り上げるために1億ドルの資金提供を約束した。最近の世論調査で、4年前のクリントンに比べてバイデンが大票田のマイアミデード郡で苦戦していることが分かったからだ。

2012年の大統領選では、マイアミデード郡でオバマがロムニーに24ポイントの差をつけた。4年前のクリントンも、支持率63%で34%のトランプに大差をつけた。しかし9月の世論調査でバイデンの支持率は55%。対するトランプは38%で、その差はわずか17ポイントだった。州内で最も民主党支持者が多いはずの郡で支持が盛り上がらないのは不吉な兆候だ。

しかも今のラティーノたちは、テレビやラジオから流れる中傷広告に加え、ソーシャルメディアに氾濫する偽情報とも闘わなくてはならない。「ラティーノ社会を標的とする大量の偽情報との闘いは続く」と言うのは、ラティーノの有権者登録を支援しているマリア・テレサ・クマル。バイデン陣営には「偽情報をかき消す努力が必要」だと言う。

「私たちもそれを心配している」と言うのは、かつてハリー・リード前上院議員(民主党)を支えていた活動家のホセ・パーラだ。「今の民主党はマイアミデード郡で支持を失っているようだ。ヒスパニック系のメディアでもたたかれている」

悪質な偽情報は伝統的なメディアだけでなく、ネット上にも拡散されている。そこではキューバやベネズエラから来た有権者が、バイデンはフィデル・カストロやウゴ・チャベス型の社会主義者だと繰り返し聞かされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

共和予備選、撤退のヘイリー氏が2割得票 ペンシルベ

ビジネス

国内債は超長期中心に数千億円規模で投資、残高は減少

ワールド

米上院、TikTok禁止法案を可決 大統領「24日

ビジネス

アングル:ドル高の痛み、最も感じているのはどこか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中