最新記事

タイ

タイ、国会議場で野党議員が3度腕を切る「流血の抗議」 反政府デモの混乱は政界にも影響

2020年10月29日(木)21時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

軍事政権に対して民主化を求めるデモが続くタイでは国会でも混乱が……。 The Reporters / Facebook

<若者たちの抗議に対して義憤に駆られた野党議員がまさかの行動に──>

学生ら若者を中心に続くタイ・バンコクの反政府デモは連日、警察の警戒をかいくぐるように各所で行われている。これまでのところ治安当局との大きな衝突や流血の惨事は起きていないが、連日の大規模デモに治安当局は放水や催涙ガスなどで対応している。ただ一向に沈静化しないデモにプラユット政権は疲労と焦燥を強めている。

そんななか、10月27日に開会中の国会本会議の議場で野党議員の一人が突然自分の腕を刃物で切る自傷行為を行い、学生デモへの同情と当局による暴力行為の中止を訴えるという異常事態が起きた。

当時国会ではデモ隊が求めている「プラユット首相の退陣」「憲法改正」「国会解散」「王室改革」などのうち「憲法改正」を協議するとして、26日から臨時招集された議員による協議が続いていた。

腕を3回自傷して抗議、野党議員

27日の協議で演説を始めた野党「タイ貢献党」所属のウィサルン・テチャティラワット議員(64歳、チェンライ選出)は、突然左腕のワイシャツをまくり上げ、取り出した刃物で切り付け始めた。

ウィサルン議員は切り付けながら「もうデモの学生たちをこれ以上傷つけないでほしい。この私の行為を最後の苦痛とするべきだ」とプラユット首相への抗議の声を上げた。ただ当時議場にプラユット首相の姿はなかったという。

この自傷行為で議場は騒然とし、チュアン国会議長は思わずウィサルン議員の自傷行為から目をそらす様子が映像に残されていた。

その後病院で手当てを受けたウィサルン議員の傷は浅く、9針縫ったものの深刻な状況にないことが分かった。

病院で治療を受けたウィサルン議員は、地元メディアに対して「国会議長、他の議員の皆さんに混乱と騒ぎを起こしたことについて申し訳ないと思う」と謝罪した。

国会議場に刃物が持ち込まれたことへの疑問も出ているが、ウィサルン議員によると使った刃物は議場に到着した後に議会関係者から借用したものであると説明した。

ウィサルン議員は1986年から国会議員を務めるベテラン議員でタクシン元首相派の野党「タイ貢献党」に所属している。タクシン元首相は現在海外滞在中だが、東北部などの農村地帯では依然として高い支持を維持しており、今回続く反政府、反プラユット首相の学生運動に資金提供などで関与が噂されているものの、確認されていない。

異例の行為に賛否両論

今回の野党議員による学生デモへの同情の自傷行為は各方面に賛否両論を巻き起こしている。最大与党の「国民国家の力党」の議員はウィサルン議員の自傷行為を「まるでメロドラマのようだ」と批判したうえで「タイ国会のイメージを著しく損なった行為であり、議場に武器であるナイフを持ち込んだことは厳しく問われるべきことである」と厳しい姿勢を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務

ビジネス

米3月中古住宅販売、前月比4.3%減の419万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中