最新記事

マスク

マスクの弊害 視覚・聴覚障害者にとってのコロナ禍社会

2020年4月21日(火)16時30分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

マスクは手話の「口の動き・表情」を隠す

image2.jpeg

手話話者にとって口の動きと表情は非常に重要だと指摘する金澤貴之・群馬大教授

先の都内外資系企業に勤める女性は、テレワークでパソコン越しの社内会議もしているが、「聴覚障害者の方は、私たち以上にこれには苦労しているようです」と言う。女性の知り合いの聴覚障害者は、ビデオ会議の画質では相手の口の動きが読めないため、対面では必要としなかったチャットによる文字通訳に頼らざる得ない状況だという。

手話通訳者の養成講座を持つ金澤貴之・群馬大学共同教育学部教授は、「口形は、日本手話でも非常に重要です。副詞的な機能も果たしますので、口話をする(口の動きを読む)人だけでなく、全ての手話話者にとって、口の形はとても大事なのです」と言う。そのため、聴覚障害者の講師も多い研究室でも、マスクを外さざるを得ないシーンが多い。ZOOMでの講義に切り替わった今は、画質やタイミングのズレといった技術上の問題も加わる。「手話話者が生きにくい世の中になりました」と金澤教授は語る。

別の専門家は、「聴覚障害者の多くは記者会見などを字幕で見ることはなく、(テレビの重要な情報発信に)手話通訳は必要だ」と言う。確かにコロナ関連の記者会見をテレビで見ていると、首相や知事の後ろには必ずと言っていいほど手話通訳者がいる。そして、手話通訳者だけはマスクをしていない。これについて、金澤教授は「神奈川県知事の記者会見など、一部の手話通訳者に透明のフェイスガード的なものをつけるケースが出てきました。でもこれ、結構光の反射があって見辛いんですよね。もう少し改善が必要な気がします」と指摘する。その改良版の透明マスクが普及すれば手話話者や通訳者の救世主になるのだろうが、金澤教授は「私は、ごく少数しかいない手話話者のために、専用の透明マスクを開発してくれるだろうか?と懐疑的です。ユニバーサルデザイン的な感じで、手話話者だけでなく、みんなにとって有意義な透明マスクならペイするかもしれませんね」と言う。

<光の反射を抑えた透明マスク><皮膚感覚を損なわない優しい素材のマスク>。こうしたアイテムを、ぜひ日本のハイテク企業の技術力で早期に開発してほしいものだ。そして、根本的に大事なのは、皆が大変な今こそ、「社会的弱者を見捨てない」という、現代社会の大前提を強く意識することではないだろうか。

7R408909.jpg

「弱者を切り捨てない社会」で、再びマスクのいらない愛情あふれる社会を取り戻したい

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

超長期国債中心に円債積み増し、リスク削減で国内株圧

ビジネス

独総合PMI、4月速報50.5 10カ月ぶりに50

ビジネス

仏ルノー、第1四半期は金融事業好調で増収 通年予想

ビジネス

英財政赤字、昨年度は1207億ポンド 公式予測上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中