最新記事

ロヒンギャ

ミャンマー、終わらぬロヒンギャ難民危機 積極支援する中国の野心とは

2020年1月27日(月)18時28分

中国の習近平国家主席がミャンマーを訪問。アウンサンスーチー国家顧問と会談した。1月17日、ネピドーで撮影(2020年 ロイター/Ann Wang)

ミャンマー西部のぬかるんだ平原に、中国製のコンテナが整然と並ぶ。それぞれのコンテナには小さな窓が1つ。そこに入居する予定の難民たちの姿はまだない。

灰色のコンテナ群が中国から送られてきたのは2年前。ミャンマーからバングラデシュへ逃れた数十万人のイスラム系少数民族ロヒンギャを収容する低コストの仮設住宅としてだった。

国連は、2017年にミャンマー軍が主導したロヒンギャの弾圧をジェノサイド(虐殺)と認定している。

ミャンマー西部の戦略的重要性

ラカイン州マウンドーの近郊に設置されたコンテナが無人のままなのは、ミャンマーと関係が深い中国が仲介役を買って出る中でも、ロヒンギャ帰還を促す数カ月にわたる試みが成功していないことを反映している。

これまでも仲介を試みたインドネシアや国連の特使の場合と同様、近いうちに帰還が実現しそうな気配はない。中国は外交という「ビジネス」の難しさを味わっている。

主に障害となっているのは、難民がミャンマー国内で安全を確保できるのかという点で意見が割れていることだ。

ミャンマーはロヒンギャ帰還に向けて安全な条件を整えたと主張しているが、バングラデシュと国連は、ラカイン州は紛争が絶えず、人権が保障されないため、難民を帰還させるのは危険だとしている。当のロヒンギャは、現在は否定されている市民権と移動の自由が保障されない限り戻らないとしている。

中国は過去2年間、ミャンマーとバングラデシュの首脳会談を3回仲介した。当局者がバングラデシュ領内のロヒンギャ難民キャンプを何度も訪問し、難民を輸送する家畜運搬用トラックを調達し、現金を使って帰還を促したが、どれも功を奏さなかった。

これまでに帰還したロヒンギャは200─300人規模。それでも中国は、「進捗はあった」と主張している。

さきごろミャンマーを訪問した習近平国家主席は、共同声明の中で、中国が今後も仲介を続ける意欲を再確認した。ミャンマー側は「ラカイン州の問題、その困難さ、複雑さに対する中国側の理解」に感謝を示した。

習主席によるミャンマー訪問の焦点は、賛否の分かれる水力発電ダムやラカイン州の深水港など、中国支援による大規模なインフラ整備プロジェクトだ。これによってミャンマーは、世界中に交易ルートを広げることを狙った習氏の看板政策「一帯一路」構想に不可欠の一片となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期契約の伸び鈍化も安定予想 MS

ビジネス

独消費者信頼感指数、5月は3カ月連続改善 所得見通

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中