最新記事

中国共産党

超ハイテク監視国家・中国が拡散する悪魔の弾圧ツール

China’s Surveillance State

2019年10月29日(火)17時00分
サラ・クック(フリーダム・ハウス上級アナリスト)、エミリー・ダーク(トロント大学博士課程)

国慶節に合わせて実施された香港の大規模デモで破壊された監視カメラ ANTHONY KWAN/GETTY IMAGES

<数千万人を対象にした監視システムの概要が判明。開発されたハイテク技術の国外拡散も始まった>

一昨年の夏、中国にあるごく平凡な語学学校でのこと。授業中に前触れもなく地元警察が立ち入り、外国籍の受講生全員に「ビザを見せろ」と要求した。

受講生のうち博士課程に在籍する1人は、たまたまパスポートを所持していなかった。すると警官は「まあいい」と言って受講生の名を尋ね、それを携帯端末に入力した。そして「これがおまえか」と言って端末の画面を見せた。そこには受講生の氏名と旅券番号、宿泊先の住所が表示されていたという。

新疆ウイグル自治区なら、こうした光景も珍しくない。あそこでは当局が最先端の技術を駆使して少数民族のウイグル人を監視している。だがこの語学学校があった場所は南部の雲南省だ。

今では中国全土で、地域の公安機関が特定の人々を追跡するためにデータベースと携帯端末を使っている。「重点人員」と呼ばれる人が対象で、仮出所中の犯罪者、薬物使用者、外国人、政府に請願をした人、宗教の信者などが含まれる。地方政府の通達や政府調達事業への入札情報、企業の宣伝文書などを分析すると、こうした監視技術の利用が新疆での少数民族弾圧より前から始まっていたこと、しかも中国全土で行われ、何千万もの人が監視対象となっていることが分かる。

習近平(シー・チンピン)国家主席が強権的な支配を強めるなか、監視と抑圧の対象は増える一方だ。しかもこうしたシステムを製造する中国企業は外国への輸出にも熱心だから、その影響は国境を越えて広がっていく。

公安省による2007年の「重点人口管理規定」は重点人員を「国家安全保障または公共秩序を脅かす疑いがある」者と定義。具体的には重罪犯、刑務所や労働収容所からの出所者、違法薬物の使用者などを例示している。

2011~19年に国内の省など行政機構34団体のうち26団体で出された通達70件以上を調べたところ、指定される人物の範囲はそれよりずっと広かった。特に頻繁に指定されるのは、政府に何らかの申し立てをした請願者、非合法宗教団体(中国では邪教とされる法輪功など)のメンバー、精神疾患の患者だ。加えて「維穏(社会的安定の維持)」政策に絡む者または「テロ」活動への関与者も含まれる。この2つの範囲には人権活動家やデモの参加者、ウイグル人のような少数民族が含まれる。

監視対象が増えれば、収集される個人情報のデータベースも膨大になる。中国では2000年代半ばにICカードの「第2世代身分証」が導入され、個人情報のデータベース化が進んだ。それは全国の公安当局に共有されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中