最新記事

韓国

ソメイヨシノ韓国起源説に終止符? 日本文化の起源巡る韓国世論に変化の兆しか 

2018年9月19日(水)11時35分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

韓国では日本のソメイヨシノ(写真)と済州島に自生する「王桜」が同種とする「韓国起源説」が主張されてきた 撮影:内村コースケ

<桜の代表的な品種のソメイヨシノの起源は韓国にあるという「韓国起源説」が、科学的な分析によって否定された。その研究結果自体は日本人にとってはそう目新しいことではないかもしれない。しかし、これを韓国メディアが「起源めぐる110年論争に終止符」と報じ、潔く 「敗北」を認めているのは異例なことだ>

今月13日付の韓国・中央日報は、『済州か日本か...ソメイヨシノ起源めぐる110年論争に終止符』と見出しを取り、韓国の研究チームが行ったゲノム分析の結果を報じた。韓国では、同国の済州島に自生する「王桜(ワンボンナム)」がソメイヨシノの起源であるとする説が広く信じられているが、今回の分析により「済州の王桜と日本のソメイヨシノは明確に異なる別の植物であることが分かった」という。その結果は、世界的な学術誌『ゲノムバイオロジー』9月号に掲載された。

ソメイヨシノは、日本固有種のオオシマザクラとエドヒガン系の桜を親とし、接ぎ木や挿し木で人工繁殖させたクローンであることが、数多くの遺伝子研究により明らかになっている。しかし、韓国ではソメイヨシノと王桜は同種であるという説が主流だ。そのため、韓国語ではソメイヨシノのことを王桜と同じ「ワンボンナム」と呼ぶ。ソメイヨシノ=王桜は、今や韓国各地に植えられ、花見の文化も定着している。

この"ソメイヨシノ韓国起源説"を強化するような記事が、春になると毎年のように韓国主要メディアで報じられてきた。今回の報道により、それに終止符が打たれるのだろうか?

タブー視されてきた「起源」巡る客観的主張

中央日報が言う「110年論争」とは、済州島に住んでいたフランス人神父が1908年に王桜を採取し、それをドイツの学者がソメイヨシノの変種だと報告したとされることが起源説の発端になっていることを指す。

ただ、これにも諸説あり、現在韓国内で支持されているのは、2009年に同国の聯合ニュースが報じた「日帝強制支配期(日韓併合時代)に、日本人が済州島の王桜を改良し、大量増殖した」のが現在の韓国と日本にあるソメイヨシノだというもの。日本がアメリカに贈り、名所になっているワシントンDCのポトマック川の桜並木もその一部だと主張されている。

一方、ソメイヨシノと王桜が異なる種であることは、韓国起源説と関係なく行われてきた数多くの研究で古くから科学的に判明しており、それが韓国を除く世界の常識となっている。

2011年には、韓国人学者自身が、アメリカ農務省のサイトに今回と同じように王桜とソメイヨシノは別種であるという分析結果を発表したこともある。ただし、この説は3年後に当のチョン・ウンジュ博士によって撤回されている。韓国公共放送KBSの取材に対し、同博士は当該の論文は「誤りだった」と述べ、ソメイヨシノの起源は王桜だという論文をあらためて発表することを約束したという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中