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習慣化した撮影現場でのセクハラの実態...ラブシーンの撮影はどうあるべきか

Intimacy Coordination

2021年06月24日(木)20時16分
スーザン・ベリッジ(英スターリング大学講師)、ターニャ・ホレック(英アングリア・ラスキン大学准教授)
『白いドレスの女』(81年)

『白いドレスの女』(81年)よりキャスリーン・ターナーとウィリアム・ハート EVERETT COLLECTION/AFLO

<性的シーンの撮影で傷つけられてきた女性たち。業界の悪しき慣行と無理解から俳優を守るために必要なこととは>

テレビドラマ『ドクター・フー』で知られる俳優・監督・プロデューサーのノエル・クラークが2000年代半ばから10年以上、セクハラや不適切な性的行為をしていたと4月末に英ガーディアン紙が報じた。20人以上の女性が被害を告白している。

ハリウッドの大物映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンがセクハラや性的暴行で告発され、「#MeToo(私も)運動」が高まってから4年余り。映画やテレビの現場を、そこで働く人々、特に女性にとって安全なものにするには今なお多大な努力が必要なことは言うまでもない。

そこで重要な役割を担うのが「インティマシー・コーディネーター」だ。

セックスやキス、入浴など、体の露出や接触を伴う場面は「インティマシー・シーン(親密なシーン)」と呼ばれる。

コーディネーターはそうした場面の準備段階から関わり、脚本家や監督、衣装デザイナー、小道具などスタッフと俳優の仲介役を務め、全てのプロセスにおいて俳優が安心できるようにサポートする。

撮影現場の慣行が全ての関係者にとって安全なものになり、親密さや性的な表現が、透明性を保って丁寧に取り扱われるようにする仕事だ。

過激な演出も予告なし

インティマシー・コーディネーターは#MeToo運動より前からエンターテインメントの現場で活動していた。しかし映画やテレビの世界でジェンダーに基づく権力の乱用に対して認識が高まるにつれ、より重要な意味を持つようになった。

エンターテインメントにおける性的虐待の証言は、それぞれが単独の事件ではなく、むしろ行動パターンの一部であるという事実を浮き彫りにしている。

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裁判所を出るワインスティーン。20年に禁錮23年の判決を受けた BRENDAN MCDERMIDーREUTERS

ワインスティーンのときも指摘されたように、業界の多くの著名人が気付いていながら、声を上げようとしてこなかった。傍観者の沈黙は、臆病さやモラルの欠如と見なされることも多い。しかし力を乱用する人々が「目立つ場所に隠れる」ことを可能にする構造的な理由もある。

スクリーンの中でも外でも、女優が物として扱われてきた歴史は長い。シャロン・ストーンは4月に刊行された回想録で、1990年代に女性としてセックスシーンを演じることがどういうことだったのかを振り返っている。

92年の映画『氷の微笑』に、ストーンの演じる主人公が警察の尋問中に脚を組み替え、下着を着けていないスカートの奥が見える悪名高いシーンがある。彼女はそのような演技をするように仕向けられたと感じていた。また、エージェントや弁護士がたくさんいる部屋で初めて試写を見せられたことを語っている。

キャスリーン・ターナーは2000年に出演したラジオ番組で、『白いドレスの女』(81年)の撮影初日に、監督から予告なしでヌードシーンを求められたときのことを語っている。

彼女が緊張していると言うと、共演のウィリアム・ハートから、ワインを飲んでリラックスするように声を掛けられた。彼女はこれを虐待ではなくユーモアと受け止めたが、セックスシーンの撮影時に女優への配慮が欠けていることを示している。

マリア・シュナイダーは『ラストタンゴ・イン・パリ』(72年)のアナルセックスのレイプシーンについて、ベルナルド・ベルトルッチ監督と共演のマーロン・ブランドに「少しレイプされたように感じた」と振り返っている。このシーンの演出は彼女の同意を得ずに撮影された。

男性優位のエンターテインメント業界で、インティマシー・コーディネーターの概念が文化的に正当な地位を得るまでにこれほど長い時間がかかったという現実は、多くのことを物語る。

イギリスではつらい告発が続いている。オーディションで女性が裸で演技をするように強要され、その際に本人が知らないうちに撮影された映像が、外部で共有されていたケースもある。

性差の構造的な不平等

ティーン向けのテレビドラマ『スキンズ』に出演したカヤ・スコデラリオはツイッターの投稿で、大物監督(名前は明かしていない)の初めてのオーディションで服を全部脱ぐように言われたと告白した。

彼女のエージェントが拒否したおかげで、危険が潜む搾取的な状況から脱することができた。その作品にヌードシーンはなかった。

インティマシー・コーディネーターの草分け的存在のイータ・オブライエンは、俳優の安全を守る「インティマシー・オン・セット・ガイドライン」を作成。コーディネーターの養成などを行う団体「インティマシー・オン・セット」を設立した。

インティマシー・コーディネーターは、構造的な不平等に対する唯一の解決策ではない。ジェンダー間の力の不均衡が顕著なエンターテインメント業界で、弱い立場の人々の安全を守る唯一の方法でもない。

それでも、何が許容されて、何が許容されないかという明確なガイドラインを広めるために、インティマシー・コーディネーターは手助けできるはずだ。

関係者から明示的な同意を得る、オーディションやスクリーンテストの方法を検討する、撮影プロセスの透明性を高める、撮影を非公開にする、俳優の個人的な境界線を尊重するなどの対策を優先させることは、必要不可欠な前進につながる。

The Conversation

Susan Berridge, Lecturer in Film and Media, University of Stirling and Tanya Horeck, Associate Professor in Film, Media & Culture, Anglia Ruskin University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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