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スイスに新チョコ博物館 メーカーはサスティナブルなカカオで世界をリードへ

2020年09月18日(金)11時40分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

大手、そして小メーカーがしのぎを削る

チョコ博物館を作っているのは、リンツだけではない。規模の大小はともあれ、スイス各地で、いくつかのチョコメーカーがショップを併設したチョコにまつわる常設展示を公開している。

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2009年開店の新参・高級チョコ店「マックス・ショコラティエ」は10数人で経営。展示はないが、テースティングやチョコ作りができる  写真:同店提供

大手メーカーは先述のリンツ、ネスレ(キットカットやカイエを始め10のチョコブランドをもつ)、ショコラ・フレイなど。ほかにも日本ではあまり知られていないブランドやチョコショップは多く、各自が独自路線で健闘している。

たとえば小さい店だと、カカオ含有量が多くてもあまり苦くないチョコを開発したショコラ・ディーター・マイヤー、祖父、息子、孫息子の3世代のチョコ好きが高じて手作りチョコを販売するマックス・ショコラティエなどがある。

国内チョコ市場の2~3%を占める小メーカーのマエストラーニは、3つのチョコブランドをもち、主力のナッツ入りチョコバーで違いを出している。ブランドの1つミノールのミニサイズはカフェでコーヒーを注文すると添えられることも多いように、ユニークな商品を作り続け、今後もニッチ市場に力を入れていくという。

とはいえ、リンツとネスレのマーケットシェアが大きく、また、昔はなかった輸入商品が現在国内市場の40%を占めるまでになってしまい、大勢の製造者にとっては決して楽ではない状況だ(以上マエストラーニ社CEOのインタビューより)。

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量り売りで知られる「レダラッハ」は国内に45店。国外店も多く、近くロンドンのリージェントストリートやニューヨークの5番街にも開店する 写真:同店提供


カカオ豆あってこそのチョコ作り

輸入チョコの割合が増えても、スイスのチョコ産業全体としては好調だ。品質の良さを国外へさらにアピールすることに成功していて、国内消費よりも国外消費(輸出)の売り上げが伸びている。2019年はこれまでで最高だった。輸出先はヨーロッパ諸国が多く、北米、中東、中国やシンガポールからの需要も高いという。

輸出の好調は続くのか。国内消費も上昇していくのか。今後もスイスチョコの高級イメージを維持していくためには商品自体の良さもさることながら、児童労働問題や環境問題などSDGsに沿ったビジネスが求められるが、スイスではこういったサスティナブルなカカオ豆の使用を増やしていく方針だ。

チョコメーカー、輸入業者、小売店、NGO、研究機関で結成した団体「サスティナブルなカカオ豆のためのスイスのプラットフォーム」のレポートによると、2018年にスイスに輸入されたカカオ豆類(豆、カカオバター、カカオパウダー)の58%はサスティナブルに生産されたものだった。2025年までに、その割合が少なくとも80%に達することが目指されている。



 

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岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

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