最新記事

地域経済

移動が滞る今こそ地方経済「復活」の好機、カナダで進む「デジタル地域主義」とは

DIGITAL LOCALISM

2022年2月4日(金)10時41分
ミリアム・エーツ、ダミアン・アリガット、イメン・ラトルス、ジュリアン・ブスケ(カナダ・ケベック大学シクティミ校)
活気を失った商店街

新型コロナは小さな商店や企業に打撃をもたらしたが THILO SCHMUELGEN-REUTERS

<地域密着型の小規模プラットフォームが続々と誕生し、市民による「地元支援」が加速したカナダ・ケベック州の実例に学ぶ>

新型コロナウイルスの影響で地産地消への需要が高まったことから生まれたのが、「デジタル地域主義」。これを支えるのは、オンライン消費を地域社会の利益に結び付けるプラットフォームだ。

コロナ禍で国境が閉鎖されると、地元で商品を生産し地元に供給してほしいと望む声が増えた。一方で人々はアマゾンのような巨大プラットフォームを、小さな企業や商店の不幸に付け込み利益を得ていると批判した。

市民の声を受け、カナダ・ケベック州では「ル・パニエ・ブル」「ブーメラン」など地元の生産物を扱うプラットフォームが続々と誕生。運転手がビジネスをコントロールしやすい協同組合形式の相乗りサービスのプラットフォーム「イーバ」も普及した。

イーバの相乗りサービスで移動し、地域密着型広告サイト「キジジ」で物々交換し、クラウドファンディングサイト「ウルル」で地元のプロジェクトを支援。これが今ではケベックの日常で、そんな変化を可能にしたのは「消費者=供給者」のコンセプトだ。

20世紀初頭から消費は生産から切り離されていき、消費者はやがて厳密に物を買うだけの存在になった。だが近年、シェアリングエコノミーや共同消費、クラウドベース資本主義といった新しい概念が、消費と生産の線引きを曖昧にしている。物を買うだけではない能動的消費者が増え、供給者、ボランティア、時には共同経営者の役割を引き受けているのだ。

ケベックの大量購入グループ「ヌーリール」がいい例だろう。メンバーは商品を購入しつつ、供給者やボランティアとしてまとめ買いのシステムを回していく。

こうした消費者の行動の動機は何か。買い手と供給者にはもともと経済的・実利的目的があるが、消費者が供給者を兼ねる場合は、人との交流や社会貢献も動機になる。

金融の民主化が進んだことも大きい。クラウドファンディングサイトでは、誰もが応援したいプロジェクトに出資できる。個人投資家の仲介プラットフォーム「イートロ」は、金融市場への投資をより民主的なプロセスにした。

個人がこの手のプラットフォームを利用し、公共・民間投資の行き届かない分野に資金を振り向ければ、地域経済の活性化につながる。

特定の顧客層をつかめ

市場変革のなかで最も注目度が高く破壊力が大きいのはシェアリングエコノミーだろう。ホテル業界がAirbnb(エアビーアンドビー)に、タクシー業界がウーバーに反発するのは、両社が誰でも有料で宿泊施設や交通手段を提供できるようにしたからだ。

プラットフォームで使われるアルゴリズムがガバナンスや利用者の権利に及ぼす影響には、注意が必要だ。プラットフォームが生成するデータが急増したことで企業は利用者のニーズを迅速に探り、支払い能力を査定できるようになった。だがこうした力は差別的商慣行を招きかねない。

また現在のシェアリングエコノミーは大手の独壇場で、小規模業者の参入は難しい。デジタル地域主義は世界に根付くのか。地域を支えるために生まれた小型プラットフォームは生き残れるのか。

中国のカーシェアを調査したある研究によれば、中小のプラットフォームが生き残る道はただ1つ。特定の顧客層をつかみ、価値提案やコスト構造に工夫を凝らすなどして、大手が取りこぼしたニーズに応えることだ。

それでもデジタル技術の発展により、個人が地域経済に貢献する手段は確実に増えた。コロナ禍で加速化した動きは当分止まらないだろう。

dx2022_mook_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「成功するDX 2022」が好評発売中。小売り、金融、製造......企業サバイバルの鍵を握るDXを各業界の最新事例から学ぶ。[巻頭インタビュー]石倉洋子(デジタル庁デジタル監)、石角友愛(パロアルトインサイトCEO)

The Conversation

Myriam Ertz, Professeure adjointe en marketing, responsable du LaboNFC, Université du Québec à Chicoutimi (UQAC); Damien Hallegatte, Associate professor, Université du Québec à Chicoutimi (UQAC); Imen Latrous, Associate professor, Université du Québec à Chicoutimi (UQAC), and Julien Bousquet, Professeur titulaire, Université du Québec à Chicoutimi (UQAC)

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUが外相会合、イラン制裁強化に向けた手続き開始へ

ワールド

米国務長官、ロシア防衛産業への中国支援問題を提起へ

ワールド

イスラエル戦時内閣、イラン攻撃巡る3度目閣議を17

ビジネス

英インフレ低下を示す力強い証拠を確認=ベイリー中銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    【画像・動画】ウクライナ人の叡智を詰め込んだ国産…

  • 10

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中