最新記事

新型コロナ変異株

南米発・ラムダ株はどれだけ怖いのか、豪ウイルス学者が解説

WHAT IS THE LAMBDA VARIANT?

2021年8月18日(水)14時20分
アダム・テイラー(豪グリフィス大学メンジーズ保健研究所研究員〔ウイルス学〕)
新型コロナウイルス・ラムダ株

koto_feja-iStock.

<南米を中心に感染拡大中、日本でも確認された変異株・ラムダは、既存株より感染力が強く、抗体の中和効果もいくらか下がるとされる。ワクチンは有効なのか。研究からいま分かっていることは>

※本誌8月24日号「日本人が知らない 変異株の正体」特集より

2020年8月に南米のペルーで最初に報告された新型コロナウイルスの変異株「ラムダ株」は、南米を中心に世界の約30カ国に広がっている。

現在、南米では新型コロナウイルスの新規感染者の20%以上がラムダ株に感染しているという(編集部注:日本では7月20日に羽田空港で初めての感染者が確認された)。

今年6月には、WHO(世界保健機関)がこの変異株を「注目すべき変異株(Variant of Interest)」に分類した。遺伝子の変化により、伝播しやすさなどウイルスの性質が既存の株と変わっている可能性があるためだ。

ただし現時点では、アルファ株やデルタ株とは異なり、最も要警戒度が高い「懸念される変異株(Variant of Concern)」には分類されていない。

ラムダ株に関しては、まだ十分な疫学的データが蓄積されているとは言い難い。そのため、ウイルスの伝播力、ワクチンの有効性、症状の重症度などが既存株とどのように違うのか、確かなことは言えない。

それでも、これまで集まっているデータを見る限り、ラムダ株は既存株よりも感染しやすく、免疫システムから逃れる能力がやや高い。だが、いま用いられているワクチンは依然として有効と言えそうだ。

ラムダ株は、ウイルスの突起部分であるスパイクタンパク質の遺伝子に、「F490S」や「L452Q」など、いくつかの特徴的な変異が起きている。

この2種類の変異は、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)と呼ばれる部分に生じる。RBDは、ウイルスのスパイクタンパク質が体内の細胞と結合する場所だ。

そのため、このような変異により、ウイルスの感染力が高まり、ワクチンの有効性にも影響が及ぶ可能性がある(既存のワクチンは、スパイクタンパク質を標的にしている)。

抗体の中和効果が弱まる?

ラムダ株のスパイクタンパク質に関する査読前の論文データによると、こうした変異の結果として、ウイルスの感染力が高まっているらしい。要するに、ラムダ株は、最初に中国の武漢で流行した従来株や既存のアルファ株、ガンマ株などよりも感染しやすいと言えそうだ。

加えて同じ研究によれば、中国のバイオテクノロジー企業シノバック・バイオテック(科興控股生物科学)が開発した新型コロナウイルスワクチン「コロナバック」を接種した人の体内で作られた抗体がラムダ株のスパイクタンパク質を中和する効果は、従来株やアルファ株、ガンマ株よりも弱いようだ。

さらに、これとは別の査読前の小規模な研究によると、ラムダ株のスパイクタンパク質の変異は、ファイザー製とモデルナ製のワクチンによって体内で作られる抗体のウイルス中和効果も弱める可能性がある。

また、ラムダ株における変異の1つは、抗体療法によって体内に作られる抗体のウイルス中和効果もある程度弱めるように見える。

とはいえ、ラムダ株に対するワクチンの有効性の低下は、それほど際立って大きいわけではない。それに、中和抗体による中和効果は、ワクチン接種による防御免疫反応の一部にすぎない。

従って、これらの査読前の研究では、これまでに承認されているワクチンと抗体療法薬はラムダ株に対しても防御効果があると結論付けている。

では、ラムダ株は新型コロナウイルスの既存の株に比べて重症化のリスクが高いのか。

この点についてはまだはっきり分かっていない。英イングランド公衆衛生庁(PHE)が7月に発表したリスク評価では、この変異株に関しては十分な情報が得られていないため、結論を下すことはできないとしている。

一方、PHEは同じリスク評価の中で、ラムダ株とデルタ株の両方が存在している国々に対して、両方の株に対する監視を続けるよう呼び掛けている。ラムダ株がデルタ株に取って代わる力を持っているのかを見極める必要があるというわけだ。

新型コロナウイルスは、いまだに速いペースで伝播し続けている。この点を考えると、今後も新しい変異株が続々と出現するリスクがある。

ラムダ株の登場は、そうした変異が新型コロナウイルスの感染力を高めたり、ワクチンや抗体療法薬の有効性を弱めたりする恐れがあることを改めて浮き彫りにした。

WHOは、ラムダ株が世界の公衆衛生に対する新たなリスク要因になる可能性があるか注視して、「懸念される変異株」に格上げすべきかどうかを判断することになる。

The Conversation

Adam Taylor, Early Career Research Leader, Emerging Viruses, Inflammation and Therapeutics Group, Menzies Health Institute Queensland, Griffith University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中