最新記事

ヘルス

男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという間に「短命県」になったシンプルな理由

2021年9月21日(火)18時42分
家森幸男(京都大学名誉教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

実は私たちはもっと早いうちから食生活の変化に気付いていました。沖縄は米軍基地の駐留地でもあることから、早くからファストフード店が入ってきており、食の欧米化がどんどん進んでいました。それとともに肥満が増え、健診の数値も悪化していっていました。

まさに沖縄が短命になるプロセスを目の当たりにしてきたわけです。長寿宣言は1995年でしたが、その前から変化は徐々に表れていたのです。それはきっと県側も気づいていたことでしょう。「今出さなければ、今後はもう出すことができない」というギリギリのタイミングで行ったのが長寿宣言だったのではないかと思うのです。

実際、沖縄が長寿県1位の座から陥落したのはこの長寿宣言から5年後のことでした。最新の調査(2015年)は男性36位、女性7位と、さらに順位を下げています。さらには65歳未満(30~64歳)、いわゆる働き盛り世代の死亡率は男性でワースト5位、女性も同じくワースト4位と、健康状態がひじょうに厳しい状況にあることがうかがい知れます。

沖縄の健康を取り戻す計画が進行中

今、長寿・沖縄を取り戻す計画が進行しています。名付けて「元気沖縄プログラム」です。琉球大学の益崎裕章教授や、本書の監修者である東海大学・森真理准教授とともに、2040年までに沖縄の長寿を取り戻す取り組みを行っています。

まず小学生の尿検査を行い、一人一人にデータを返します。この「データを返す」ということが重要です。ナトリウムが多いから塩辛いものを食べている、カリウムが足りないから野菜が足りないと、子どもにも自分の食事の不足や過剰がわかります。

それから数カ月してまた検査をすると、みんな数値がよくなっているのです。検査をするというだけで栄養状態が改善しているのです。子どもの食事が変わるということは、家庭の食事が変わるということです。すると当然、大人も変わっていきます。

こうして子どものうちから正しい食生活を身につけ、なおかつ沖縄の伝統料理を取り戻すことで、長寿県沖縄が復活してくれることを心から願っています。

わずか14年で平均寿命が10年も短くなったエクアドルの長寿地域

長寿地域が消滅していった例として沖縄をご紹介しました。ほかにも、すばらしい長寿文化が失われていくケースがありました。エクアドルのビルカバンバなどもその例です。

世界有数の長寿村だったのですが、「ビルカバンバで暮らせば長生きできる」とアメリカ人が大挙して押し寄せ、たくさんのリゾートホテルができたりした結果、現地の人々の生活にどんどんアメリカ文化が入ってきました。

食生活もアメリカンスタイルに変化してしまいました。そのために、わずか14年で平均寿命が約10歳も短くなるほどの衝撃的な健診データが出たのです。このビルカバンバも含め、どの地域にも共通しているのはほんの数年から十数年の間に食文化が崩壊していることです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

仏サービスPMI、4月速報1年ぶりに50上回る 製

ビジネス

ECBは6月利下げ、それ以降は極めて慎重に臨むべき

ビジネス

日本の格付け「A」に据え置き、アウトルック「安定的

ビジネス

超長期国債中心に円債積み増し、リスク削減で国内株圧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中