最新記事

カルチャー

この男がいなければ... 知られざる「聖火台」成功の立役者、武井祥平らがPenクリエイター・アワードを受賞

2021年11月27日(土)16時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
東京五輪の聖火台、武井祥平

Photos:Hiroshi Iwasaki(左); 齋藤誠一(右)

<このエンジニアがいなければ、東京五輪のあの聖火台は成功しなかった――。これまでほとんど光が当たることのなかった人物、武井祥平とはいったい何者なのか>

開催の是非を含め、さまざまな激論の中で行われた東京オリンピック・パラリンピックが終わって2カ月半がたつ。

オリンピックの開会式で、大坂なおみ選手が登場したことには、多くの人が驚いただろう。大トリとも言える場面。聖火のトーチを手に、大坂は「富士山」を表現したステージの階段を上り点灯を行ったが、あの「太陽」のような球体の聖火台を覚えているだろうか。

聖火台をデザインしたのは、日本を代表するデザインチーム、nendoだ。上下2段、計10枚の外装パネルが花びらのように開き、中心に火が灯るという「動き」がポイントだった。

しかし聖火台は、実はある人物なしには完成しなかったという。これまでほとんど光の当たることのなった、その陰の立役者は、聖火台の機構設計を担当したエンジニアの武井祥平。

聖火台のスムーズな動きを実現したのは、超高精度のアルミ材加工を担ったトヨタ自動車を中心とする企業の技術力と、武井によるエンジニアリングの技術だったのである。

pen-takei20211127-2.jpg

武井祥平●1984年、岐阜県生まれ。2012年東京大学大学院情報学環・学際情報学府修士課程修了。同年、クリエイティブスタジオnomena設立。we+やsiroの松山真也らと組んだチーム、KAPPESとしてミラノサローネで作品を発表して頭角を現す。企業から作家まで幅広く協業している。https://nomena.co.jp Photo:齋藤誠一

そんな武井祥平が、このたび発表された「Penクリエイター・アワード2021」を受賞した。

合計で数百キログラムになるパネルの重量やモーターの性能など、さまざまな制約があるなか、武井は複雑で滑らかな聖火台の動きを実現。さらに天候に左右される屋外で、確実に火を灯した。

多くの検証と改善を重ね、聖火台をつくり上げた技術力が、アワード受賞の理由だという。

聖火台以外にも、nendoをはじめさまざまなデザイナー、アーティストの作品を実現させる機構を手がけてきた武井。

11月27日発売のPen誌2022年1月号「クリエイター・アワード」特集では、そんな彼のクリエイションの原点から聖火台の制作秘話までが語られている。

武井の言葉。

「回転軸を組み合わせて聖火台のそれぞれのパネルを動かすわけですが、内部に入れる機構が多ければ多いほど動きが複雑になります。しかし実際には、メカを入れられるスペースはとても限られている。球体が開き、それがまた閉じて球体となるためには、あらゆる要素の検証が必要でした」
(Pen誌2022年1月号より)

pen-takei20211127-3jpg.jpg

Photo:Hiroshi Iwasaki

pen-takei20211127-4.jpg

Photo:Hiroshi Iwasaki

「よりよい未来のために」をテーマに、外部から審査員を招き、厳選な選考を行ったという「Penクリエイター・アワード2021」では、武井のほかに、ファッションデザイナーの黒河真衣子、現代アートチームの目[mé]、クリエイティブ・ラボのanno lab、美学者の伊藤亜紗、福祉実験ユニットのヘラルボニー、デザイナーのwe+の計7組が受賞者となった。

これからの時代をつくる、そんな可能性に満ちあふれたクリエイターたちの名が連なっている。

(参考記事)エンジニアリングの力で、東京五輪の聖火台を成功に導いた【Penクリエイター・アワード 武井祥平】

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、国内ハイテク企業への海外投資を促進へ 外資撤

ビジネス

米債務急増への懸念、金とビットコインの価格押し上げ

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中