コラム

今も大統領選の不正を叫ぶトランプ信者の「陰謀論」拡散は終わらない(パックン)

2021年10月12日(火)20時37分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
トランプ支持者

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<昨年の大統領選で不正があったと訴え、各地で再集計を続けるトランプ支持者たち。「中国製の偽用紙」を探すと息巻くが......>

トランプ前米大統領の支持者らは、昨年の大統領選での不正を訴え50以上の裁判を起こしては敗訴し、選挙(election)結果の承認を阻止しようと連邦議会議事堂に乱入して失敗した。そしてアリゾナ州で6カ月弱にわたり600万ドル近くかけて非公式に票の再集計を行った。確かに結果は公式の集計と微妙に異なったが、むしろバイデン大統領の得票が増え、トランプ支持者側から見たら大失敗に終わった!

しかし、三振してアウトのはずなのに......GOP(共和党)はバッターボックスから出てくれない。むしろ、バットを振り回し続けているのだ。

次はウィスコンシン州やペンシルベニア州、テキサス州でもこの「監査」を始めるようだ。格好悪い上、無謀だが、前者2つで結果を覆したい気持ちは分からなくはない。バイデンが勝ち取った州だから。だが、テキサス州はトランプが勝った州。たまたま出たヒットを選手がわざわざ「ファウルかも!」と、非公式にビデオ判定を求めるような不可解さだ。

最初から選挙結果を覆すためではなく、選挙自体の信頼性を損ねるのがGOPの真の目的と推測される。陰謀説の「証拠」捜しのためか、アリゾナの「監査」では投票用紙の重さを量ったり、手触りを確認したり、赤外線で照らしたり、用紙に竹の繊維が入っているかどうかを調べたりした。最後のは、不正投票に使われた「中国からの偽用紙」を探すためだという。実にばかばかしい! 中国の紙に竹の繊維が入っているなんて! ササの繊維とかパンダの毛とかだったら分かるけど......。

これらのaudit(監査)は正当な選挙を疑わせるためだけのfraud(詐欺)だ。それを指す造語がfraudit。また、worm(虫)に「退く」を意味する接頭辞deが付いているdewormerは「虫下し」になるが、ここでは馬などの家畜の寄生虫駆除に使われるイベルメクチンを指している。新型コロナウイルスに効く証拠が乏しいとして、米食品医薬品局(FDA)とWHOが治療に使用すべきではないと警告しているにもかかわらず、共和党の上院議員も含め陰謀論者はイベルメクチンを猛プッシュしている。

専門家の見解を無視し、無根拠の陰謀説を広め続けるのは、選挙においても公衆衛生においても危険な反則行為だ。いつになったら「出場停止」になるんだろう。

ポイント

THIS STUFF ISN'T WORKING HERE IN ARIZONA...
どうもアリゾナでは効かないみたいだ...

I'LL TRY DRINKING IT IN TEXAS AND PENNSYLVANIA!
テキサスとペンシルベニアで飲んでみよう!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story