コラム

中国共産党「海賊版摘発」の真の狙いは国外情報ブロック

2021年02月27日(土)15時15分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

The End of Chinese Video Pirates / (c)2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<国内ではタブーの社会問題を議論できるクラブハウスは貴重な交流空間だったが、すぐに中国政府にブロックされた>

中国人ネットユーザーにとって、2021年のスタートは灰色だった。お気に入りのアプリ「クラブハウス」を政府にブロックされただけではなく、よく利用していたサイト「人人影視字幕組」も取り締まられたからだ。

2020年4月に公開されたクラブハウスは、リアルタイムで会話できる音声交流アプリ。アプリ内で好きなように「ルーム」を設け、興味のある問題を自由に討論できる。台湾、香港、中国大陸からもユーザーが集まり、中国国内でタブー視される社会・民族問題を議論した。

民族や出身を問わず、人々の対話は真剣で誠実そのもの。ある中国人の若者はこのアプリで初めてウイグル人と直接会話し、再教育キャンプの存在を知って泣きながらウイグル人に謝罪した。大変貴重な交流空間だが、当然すぐ中国政府にブロックされた。

ただ、中国人ユーザーにとってより悔しいのは、「人人影視字幕組」の閉鎖と14人の「組員」が逮捕された事件だろう。インターネットの普及に伴い、中国では2001年頃から翻訳愛好者が集まる団体が現れた。彼らは日本のアニメや欧米の映画など、国外の人気作品に中国語字幕を付けて中国語ネットで公開した。「人人影視字幕組」は、この中で最も人気を博したグループである。

閉鎖理由は「盗版(海賊版)の取り締まり」だ。確かに彼ら愛好者団体が、最初から国外作品の許可をほとんど取っていないのは周知の事実である。が、それには別の背景もある。日本のアニメや欧米映画の輸入に中国政府は大変厳しい。「合法」な輸入作品は、政府の意図に沿って「不適切」な部分をカットしなければならない。

だからこそ、「人人影視字幕組」が人気になった。言い換えれば、彼らは官製文化の壁を打破して現代中国人に西側文化の窓口を提供し、欧米の価値観や生活スタイルへの憧れを呼び覚ました。急な摘発は、「海賊版取り締まり」に名を借りた西側的価値観の拡散防止としか考えられない。

クラブハウスを含む国外SNSはほぼ中国政府にブロックされた。「人人影視字幕組」も取り締まられた。中国はますます自ら世界を遠ざけていくのか、と心配せざるを得ない。

【ポイント】
人人影視字幕組

運営者は海外の海賊版サイトで作品を入手。翻訳者が1作品400元(約6500円)の報酬で字幕を付け、2万点以上の映画やドラマ、バラエティー番組を公開していた。

盗版
かつて大陸では書籍、音楽CD、DVDは「正版(正規版)」より海賊版を探すほうが簡単だった。2010年頃から政府が本格的に取り締まりを始めたが、中小海賊版サイトとのモグラたたきは続く。

<本誌2021年3月2日号掲載>

20210518issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

5月18日号(5月11日発売)は「ALLY IN CHIEF 新章の日米同盟」特集。台頭する中国の陰で新たな「同盟国の長」となる日本の重い責務 [PLUS]菅義偉首相単独インタビュー

プロフィール

ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

ニュース速報

ワールド

中国の無人探査機、火星への着陸に成功=新華社

ビジネス

セブン&アイの米コンビニ買収「違法の恐れ」、規制当

ワールド

台湾、コロナ警戒水準を引き上げ 感染者180人に急

ビジネス

アングル:米零細マスクメーカー、「在庫の山」抱え存

MAGAZINE

特集:新章の日米同盟

2021年5月18日号(5/11発売)

台頭する中国の陰で「同盟国の長」となる日本に課せられた新たな重い責務

人気ランキング

  • 1

    脱・脱日本依存? 韓国自治体が日本の半導体材料メーカー誘致に舵を切っている

  • 2

    パイプライン攻撃のダークサイド、「次は標的を選ぶ」と謝罪

  • 3

    コカ・コーラ、マッキンゼー、ソニー...... ミャンマーの外資系企業、国軍が土地所有のビルから立ち退く

  • 4

    【動画】ゲームにあらず、降り注ぐロケット弾を正確…

  • 5

    日本経済、低迷の元凶は日本人の意地悪さか 大阪大…

  • 6

    捕獲のプロが巨大ニシキヘビに遭遇した意外な現場...…

  • 7

    半月形の頭部を持つヘビ? 切断しても再生し、両方…

  • 8

    「話すことが苦手だった」メンタリストDaiGoの人生を…

  • 9

    インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われ…

  • 10

    米物価上昇が意味すること

  • 1

    オーストラリアで囁かれ始めた対中好戦論

  • 2

    メーガン妃を誕生日写真から「外した」チャールズ皇太子に賛否...「彼女に失礼」「ごく普通」

  • 3

    パイプライン攻撃のダークサイド、「次は標的を選ぶ」と謝罪

  • 4

    日本経済、低迷の元凶は日本人の意地悪さか 大阪大…

  • 5

    ノーマスクの野外パーティー鎮圧 放水銃で吹き飛ば…

  • 6

    金正恩が指揮者を公開処刑、銃弾90発──韓国紙報道

  • 7

    脱・脱日本依存? 韓国自治体が日本の半導体材料メ…

  • 8

    【動画】ゲームにあらず、降り注ぐロケット弾を正確…

  • 9

    インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われ…

  • 10

    プロポーズを断っただけなのに...あまりに理不尽に殺…

  • 1

    メーガン・マークル、今度は「抱っこの仕方」に総ツッコミ 「赤ちゃん大丈夫?」「あり得ない」

  • 2

    「お金が貯まらない家庭の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は置かない『あるもの』とは

  • 3

    オーストラリアで囁かれ始めた対中好戦論

  • 4

    親日家女性の痛ましすぎる死──「日本は安全な国だと…

  • 5

    メーガン妃を誕生日写真から「外した」チャールズ皇…

  • 6

    ヘンリー王子、イギリス帰国で心境に変化...メーガン…

  • 7

    韓国、学生は原発処理水放出に断髪で抗議、専門機関…

  • 8

    パイプライン攻撃のダークサイド、「次は標的を選ぶ…

  • 9

    ビットコインバブルは2021年ほぼ間違いなく崩壊する

  • 10

    知らない女が毎日家にやってくる──「介護される側」…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中