コラム

「世界文明の起源は中国」!? 中国の特色ある自信が暴走中

2019年11月22日(金)17時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Confidence with Chinese Characteristics / ©2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<お金に対する過信と民主主義に対する不信が、中国人さえも信じない奇妙な研究成果を生み出した>

「英語は中国語をパクった言語。勝手に中国語の一部を切り取っている。例えばアルファベットの『A』は漢字の『命』の上半分。『B』も耳偏。英語の『go』は中国語の『狗(イヌ)』と全く同じ発音だが、中国人が猟犬に指令を出すとき、いつも『狗! 狗!』と呼ぶので、英語にパクられた」――。

ジョークでも笑い話でもない。中国人作家の立派な研究成果だ。これとは別に、著名な法学者・杜鋼建(トゥー・カンチエン)の「世界文明の起源は中国・湘西地方(湖南省西部)だ」という大発見もある。これらは書籍として出版され、シンポジウムも開かれた。ただしSNSで笑われ、「奇書」とからかわれたが。

中国人さえ信じない「研究成果」「大発見」が、なぜ厳しい検閲のある中国で出版され、シンポジウムまで開かれるのか。

それは「文化の自信」のためだ。習近平国家主席の言葉で、「制度の自信」「道の自信」「理論の自信」と合わせて「中国の特色ある社会主義の4つの自信」と呼ばれている。貧しかった鄧小平時代の外交スローガン「韜光養晦(とうこうようかい)」とは違う。豊かな強国ぶりを誇示するため、「中国の特色ある自信」を唱える時代になったのだ。

金持ちの中国人は自信満々だ。今年の夏、カナダ・トロントで中国人留学生がフェラーリの車列で金満ぶりを見せびらかしながら、香港デモの支援者を「貧乏野郎!」とあざ笑った。豊かになった中国人はもう民主主義を信じていない。なぜか。西側諸国を見れば分かる。民主主義だけじゃ飯は食えない。だからアメリカもトランプのような大統領を選んだ。民主主義って本当にいいものなのか?――かつて民主主義に憧れた知識人・文化人にも疑いの芽が生まれた。お金に対する過信と民主主義に対する不信が、「中国の特色ある自信」を支えている。その結果、出現したのが冒頭の「研究成果」だ。

この40年間の中国の経済発展は確かに奇跡だ。ただし、これは開放された中国社会と西側諸国との協力関係によって実現した。中国の特色ある社会主義ゆえ、ではない。

自信は良いものだ。しかし実力にふさわしくない自信はただの無知。謙遜を失った自信はただの傲慢でしかない。

【ポイント】
杜鋼建

中国・湖南大学法学部教授。英語は古代中国語から生まれた言語で、イギリス人は湖北省英山県からやって来た、とも主張している。「英語中国起源説」の代表的論者。

韜光養晦
1990年代に鄧小平が強調した中国の外交方針。「才能を隠して、内に力を蓄える」という意味で、天安門事件の批判をかわしつつ、米中の実力差を埋める狙いがあった。

<本誌2019年11月26日号掲載>

20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story