コラム

「買い物弱者」問題のこれから──食材宅配サービスから考える、免許返納後の暮らし

2021年09月29日(水)20時40分
食材 宅配

スーパーに行かなくても生活できる時代?(写真はイメージです) byryo-iStock

<自動車を保有しない高齢者をはじめ、日常的な買い物に困難を抱える人は少なくない。ネット注文が当たり前となった今日だが、高齢者層にも親しまれてきた宅配サービスとしての生協に「買い物弱者」問題解決のヒントを探す>

日々の食料品などの買い物が困難な状況に置かれる「買い物弱者(買い物難民、と表現されることも)」の問題が顕在化している。高齢者の単身世帯や免許返納で、買い物ができないのではないかという不安を抱える当事者や家族の声を耳にする。

そこで一目置かれるのが、宅配サービスだ。高齢者に利用されている生協(コープ)の体験と、モビリティの視点からこの問題について考える。

「買い物弱者」とは

「買い物弱者/買い物難民」という言葉を聞く機会が増えた。総務省の「買物弱者対策に関する実態調査結果報告書(平成29年7月総務省行政評価局)」によると、実は統一された定義はないそうだ。

農林水産省と経済産業省は、「買い物弱者」について、次のように説明している。

農林水産省では、「高齢者等を中心に食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる人」のことを買い物弱者と位置付けている。さらに、自宅から生鮮食料品販売店舗までの直線距離が 500メートル以上あって、自動車を保有しない人を「食料品アクセス困難人口」としてカウントしている。

経済産業省は平成23年5月に公表した「買い物弱者応援マニュアル ver.2.0」の中で「買い物弱者マップ」の作成方法を紹介しており、生鮮三品(青果、鮮魚及び精肉)を取り扱う店舗を中心とした半径500メートルから 1キロメートル(高齢者の平均的な徒歩移動可能距離)の域外に居住する単身または二人暮らしの 65 歳以上の者を推計対象としている。

これらを踏まえると「買い物弱者」とは、過疎地に限らず、買い物に不自由を感じている高齢者だといえる。自動車を運転できない、公共交通が使えない、一人で外出できない高齢者はほとんど全員となる。

宅配サービスを利用できる高齢者、近所に子供や親戚が住んでいて定期的に買い物に送迎してもらえる高齢者、自ら作物を育てて暮らす高齢者も含まれると考えてよさそうだ。

多様な宅配サービス

このように日常の買い物に困難を抱える人の生活をサポートする手段として、宅配サービスが注目されている。

食材の宅配サービスといっても、いろいろなタイプがある。スーパーなど店舗での小売りが中心で宅配サービスへと展開を広げたタイプ。店舗を持たずに宅配を中心とするタイプ。農家から直接届くタイプ。食材のみや、献立とそれに必要な食材をパッケージとして送るタイプ、加工した弁当を送るタイプなどさまざまだ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ支援措置、国連事務総長「効果ないか

ワールド

記録的豪雨のUAEドバイ、道路冠水で大渋滞 フライ

ワールド

インド下院総選挙の投票開始 モディ首相が3期目入り

ビジネス

ソニーとアポロ、米パラマウント共同買収へ協議=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story