コラム

欧州でロシアの工作活動が冷戦期並みにエスカレート 

2021年08月13日(金)15時03分

・2月25日、ドイツ連邦検察庁はベルリンのロシア大使館に勤務するGRU工作員にドイツ連邦議会議事堂の平面図を渡したとしてドイツ人の男を起訴した。

・3月19日、ブルガリア検察当局はロシアのスパイネットワークに協力したとしてブルガリアの国防省と軍事情報機関の高官らブルガリア人6人を起訴。GRUに訓練されたとされる元国防省高官はブルガリアや北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)に関する機密にアクセスできる人々で構成される「スパイネットワーク」を募集していた。元高官の妻はロシアとブルガリアの二重国籍を有し、在ブルガリア・ロシア大使館との仲介役だった。

ブルガリアでは19~20年、ロシア人外交官と技術助手計5人が追放されている。20年3月にはブルガリア人武器商人を殺害しようとしたとしてロシア人3人を起訴。11~20年に同国で4回起きた武器庫の爆発が東欧、ウクライナ、ジョージアへの武器の流れを止めるロシアの破壊工作かどうか調査している。

・3月30日、イタリア警察当局は5千ユーロ(約64万8千円)を受け取る見返りとしてロシア人武官に機密の軍事文書を流していたイタリア海軍大佐を逮捕、機密扱いの写真やNATOの軍事文書など237点を押収した。それまでロシアとの関係は良好と考えていたイタリアは「敵対行為に当たる」としてロシア人外交官2人を追放した。

・4月17日、チェコは作業員2人が死亡した2014年の爆薬庫爆発に関連してスパイと特定したロシア人スタッフ18人を追放。同月18日、ロシアが報復としてチェコ人スタッフ20人を追放。同月22日にはチェコがロシアの外交官とその他のスタッフ計63人の追放を発表する事態に。

NATO加盟国は「ロシアが欧州や大西洋地域で続ける不安化行動に懸念を示し、チェコと連帯する」と表明した。ロシアはアメリカとチェコを「非友好国」に。

・5月17日、ポーランド治安当局はロシアに軍事情報や資料を流していたとして男を逮捕。同月31日には、ポーランド治安当局はロシアのプロパガンダのためにEU議会で活動するポーランド人や外国の政治家のネットワークを築こうとしていたポーランド人の男を逮捕、データストレージデバイスと6万7千ユーロ(約868万円)を押収した。

・6月21日、ドイツ連邦検察庁は南部バイエルン州のアウクスブルク大学素材研究所のロシア人研究員をスパイ容疑で逮捕。昨年10月以降、少なくとも3回にわたってロシアの工作員と接触していた。この研究員は航空機や自動車に使われることが多い複合材料の研究を行っていた。大学が管理する情報を提供する見返りに金銭の謝礼を受け取っていた。 

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story