コラム

イギリスの危ない実験「感染ピークは6週間続き、1日1千~2千人の入院で医療が逼迫」、最悪11万5800人が死ぬ

2021年07月14日(水)09時04分

WHO「大規模緩和や自由について話すのは時期尚早」

世界保健機関(WHO)のデビッド・ナバロ特別代表は「パンデミックは世界中で猛烈に進行している。ワクチン接種によってイギリスの方程式が変わったことは認めるが、正直なところ、感染拡大の曲線が急上昇している時に大規模緩和や自由について話すのは時期尚早だ」とイギリスの政策を批判した。

これについてメドレー教授は「その通りだ。パンデミックは終わっていない。政府にとって重要な問題は再び規制が必要と思うまでどの程度、感染の拡大を許容できるかということだ」と話した。「私たちは制御されていない状態で感染爆発のピークがどれぐらい続くのかまだ実際には見たことがない。これまで感染が拡大するとロックダウン(都市封鎖)を実施してきたからだ」

「7月19日に何が起きるのかは分からない。政府は規則や規制をつくることができても、重要なのは人々がどう行動するかだ。人々は外に飛び出して大規模なパーティーを開くのか。人々がすでにパーティーを実行に移してしまっているのなら、現実的に変化はほとんどないだろう。19日に何が起きるのかが最大の未知数だ。それが感染の行方を決める」

マスク着用が大きな争点とみるメドレー教授は「私は個人的に他の人を保護するためにマスクを着用する。経済的影響や自由の観点から見ても大した負担にはならない。マスクの効果はみんなが着用している場合に限られる。法的義務を外して70%の人がマスクを着用しているのに30%の人がマスクをしなければ何の役にも立たない」と指摘した。

今後2週間で感染者は倍になる。それからいよいよ危険水域に突入する。秋にロックダウンが実施される可能性について、メドレー教授は「次の2~3週間で未来がどうなるかもっと分かってくるだろう。それに対して政府は何をするかを決めなければならない。私の仕事は政府が決断を下すために最善の情報を提供するよう努力することだ」と話した。

ワクチン2回接種による「免疫の壁」を試すイギリスの実験がいよいよ始まる。感染者の増加率に比べるとまだそれほど増えていない入院患者と死者がこれからどこまで増えるのか予断を許さない。死者数の受忍限度を想定したイギリスの手法は日本で受け入れられることはないだろう。それは救える命を見殺しにすることに通じるからだ。

ワクチン効果と、ジョンソン首相が7月19日に少なくとも公共交通機関や3密状態でのマスク着用を法的義務として残すことを祈らずにはいられない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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