コラム

韓国で男性の育児休業取得率が増加、その理由は?

2021年08月27日(金)19時43分
育休中の父子イメージ

男性の育休取得が進めば、少子化対策にもなる PIKSEL-iStock.

<昨年の韓国男性の育児休業取得率は約25%。2002年の2.1%から急上昇した。その仕組みは日本でも参考になりそうだ>

出生率の低下が続いている韓国で男性の育児休業取得率が増加している。2002年には78人で全育児休業取得者の2.1%に過ぎなかった男性の割合が、2020年には27,423人で24.5%まで上昇した。なぜ、多くの男性が育児休業を取得することができるようになったのだろうか。

■男女別育児休業取得者と全育児休業取得者のうち男性が占める割合
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出所)雇用労働部(雇用保険DB資料)から筆者作成

韓国で男性の育児休業取得者が増えた理由としては、「パパ育児休業ボーナス制度」の施行が挙げられる。女性の労働市場参加の増加や育児に対する男性の意識変化等の要因もあるが、これが最も大きな要因である。

「パパ育児休業ボーナス制度」は、男性の育児休業取得を奨励し、少子化問題を改善するために2014年10月に導入された。同制度は、同じ子どもを対象に2回目に育児休業を取得する親(90%は男性)に、最初の3カ月間は育児休業給付金として通常賃金の100%を支給する制度だ。
※通常賃金は労働者に定期的・一律的に勤労の代価として支給する事と定めた金額で、基本給と諸手当の一部が含まれる。

また「パパ育児休業ボーナス制度」の支給上限額は1カ月250 万ウォンに設定されており、それは1回目に育児休業を取得する際に支給される育児休業給付金の上限額(1カ月150 万ウォン)より高い。

このように、育児休業を取得しても高い水準の育児休業給付金が支給され、ある程度の所得が保障されるので、中小企業で働いている子育て男性労働者を中心に「パパ育児休業ボーナス制度」を利用して育児休業を取得した人が増加したと考えられる。

実際、2020年における育児休業取得者数の対前年比増加率は、従業員数30人以上100人未満企業が13.1%で最も高い(従業員数10人以上30人未満企業は8.5%、従業員数300人以上企業は3.5%)。
※韓国における育児休業給付金は育児休業以降の復職を進めるために、育児休職取得中に給付金の75%が支給され、残りの25%は復職してから6カ月後に支給される。

■韓国における育児休業給付金の概要
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日本でも今年の6月、男性の育児休業取得促進を含む育児・介護休業法等改正法案が衆議院本会議において全会一致で可決・成立した。厚生労働省の「令和元年度雇用均等基本調査」(事業所調査)によると、2019年度の男性の育児休業取得率は7.48%に止まり、女性の83.0%と大きな差を見せている。政府は男性の育児休業取得率を2025年までに30%に引き上げるという目標を掲げている。もしかすると、政府の目標達成に韓国の「パパ育児休業ボーナス制度」が参考になるかも知れない。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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