コラム

医療関係者に批判や圧力を向けても、医療崩壊の根本原因は解決しない

2021年09月08日(水)19時16分
菅首相と分科会の尾身会長

KIYOSHI OTAーPOOLーREUTERS

<いくら医療関係者に圧力をかけようとも、彼らだけで日本の歪んだ医療制度を立て直してコロナ対応の体制を整えることはできない>

新型コロナウイルスの感染深刻化によって事実上の医療崩壊が起こっており、医療関係者への批判が高まっている。一部の医療関係者がコロナ治療に積極的でないのは事実だが、日本で医療崩壊が発生する最大の原因は制度の問題であり、コロナ発生以降、1年以上も事態を放置してきた政府に大きな責任がある。現行法の枠組みでもできることはたくさんあるので、冷静で合理的な解決策が必要だ。

感染者数の急増で、入院できない、あるいは搬送先が見つからないという事態が頻発しており、事実上の医療崩壊が発生している。感染の急拡大で諸外国との差は消滅しつつあるが、それでも相対的に感染者数が少ない日本で医療崩壊が容易に発生するのは医療体制が貧弱だからである。

人口当たりの医療従事者数は諸外国と同レベルだが、病床数は諸外国の3倍もあり、医療従事者には日常的に過剰な負荷がかかっている。コロナ患者の対応には通常の3倍以上のリソースが必要となるため、コロナ病床を1つ確保するには、3人以上の患者を退院させなければならない。

退院や転院の強制はできないので、入院患者の調整には手間が掛かる。医者や看護師をコロナ治療を行っている別の病院に派遣する場合、当該病院で対応できる患者数が減り、病院の収入が減少するという問題もある。

つまり退院・転院の問題をクリアにしないと事はスムーズに進まないわけだが、なぜ日本では病床が過剰なのだろうか。医療従事者数が同じなのに病床が3倍もあるということは、病気が多いのか、過剰に入院させているかのどちらかである。当然、前者でないことは明らかなので、過剰入院が推察される。考えられる理由は3つで、1つは診療報酬の問題、2つ目は介護制度との兼ね合い、3つ目は精神疾患の問題である。

病院が介護を肩代わり?

日本の診療報酬には偏りがあり、病院には多数の入院患者を受け入れないと経営が成り立たないという事情がある。その結果、重篤ではない患者も本人が希望すれば入院させている可能性が高い。

では、重篤ではないから退院させればよいのかというと、そうはいかないだろう。その理由は、介護との境界線が曖昧な、疾患を抱えた要介護者が多く、病院が事実上、介護を肩代わりしている可能性が否定できないからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story