コラム

トランプバブル崩壊は近い 「貪欲」が資本主義の終焉を招く?

2018年09月19日(水)12時03分

米中貿易戦争の激化やトランプバブルの行方が日本経済を左右する KIM KYUNG HOON-REUTERS

<リーマン・ショックから10年。次なるバブル崩壊のお膳立ては整っており、中国に頼れない今回は、世界経済が総崩れになりかねない。次の危機後に現れる世界経済の姿とは――。本誌9/19発売号「リーマンショック10年 危機がまた来る」特集より>

※本誌9/25号(9/19発売)は「リーマンショック10年 危機がまた来る」特集。貿易戦争、新興国リスク、緩和バブル......グローバル経済を直撃した未曽有の危機は再び人類を襲うのか。迫り来る「次」の金融危機の足音。

リーマン・ショックから10年。ニューヨーク・タイムズ紙は9月7日付で、危機に対応したベン・バーナンキ元FRB議長、ヘンリー・ポールソン、ティモシー・ガイトナー両元財務長官連名の論説を掲載した。「バブルは必ずやって来る。いざというときのために、議会はFRBと政府に十分な破綻防止・救済権限を与えよ」との趣旨だ。

アメリカでバブルが膨らんではつぶれるようになったのは、90年代に金融工学が発達し、銀行資金が大量に投機的債券の購入に向かうようになったためだ。だが3人はそうしたバブルの資金源を絞れとは言わない。アメリカのエリートは金融でほしいまま稼ぎながら、「バブルは不可避。つぶれたら、政府が税金で救済すればいい」と思っているようだ。野放しの貪欲が資本主義を食い倒そうとしている。

アメリカでは90年以来、バブル発生と崩壊が約10年ごとに訪れる。今、10年来の低金利であふれたカネは企業を自社株買いに向かわせ、実力以上の株高を招いている。リーマン危機で暴落した株価は10年に危機前の水準に戻り、今はさらに2倍以上に上昇した。

このバブルの火にトランプ大統領が油を注ぐ。前任のバラク・オバマ大統領が苦心して、財政赤字を09年度の対GDP比9.8%から17年度に3.4%に下げたのを、トランプはこれにタダ乗りする形で法人税を大幅削減し、一方で国防費を大盤振る舞い。社会保障費は一貫して増えており、財政赤字はこれから悪化する。28年には国債の利払いだけで、歳出の25%を占めるという試算も出ている。バブル崩壊のお膳立ては整っている。

今秋の中間選挙までトランプがあらゆる手段を使いバブル崩壊を阻止しても、その後は分からない。中間選挙による共和党の後退、中国経済の大崩れ、かつてのリーマン・ブラザーズ破綻並みの想定外の出来事が、バブル崩壊の引き金を引くだろう。リーマン危機の時は中国経済が成長のエンジンとなったが、今回は総崩れになりかねない。

低成長と高物価時代の再来

リーマン危機後に言われた「資本主義の終焉」が今度こそやって来たのだろうか。いや、競争と市場メカニズムに基づいた資本主義が最も効率的で、活力をもたらす経済であることは変わらない。金融テクニックと投機で膨らんだ「仮想」の富が剝げ落ちるだけだ。まともな生活水準を持つ多数の人口、蓄積した資本と貯蓄、そして技術がある限り、経済は回り続ける。

ただ、次の危機後に現れる世界経済は、今とは随分違った姿になるだろう。トランプの「製造業は本国に帰れ」の掛け声で「地産地消」の比重が増え、グローバルなサプライチェーンは大幅に変わる。中国で輸出用製品を組み立てる企業は減るとともに、外国から中国への部品や機械の輸出は減少する。輸出主導の経済発展がしにくくなるため、途上国の経済は停滞する。世界全体の成長率は低下する半面、工業製品の価格は上昇傾向を示すだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

24年の独成長率は0.3%に 政府が小幅上方修正=

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、ゴールドマン会長・CEO

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story