コラム

人民解放軍を骨抜きにする習近平の軍事制度改革

2015年12月10日(木)17時00分

人民解放軍は中国共産党の政策やイデオロギーを宣伝する役割も担ってきたが(写真は昨年9月、モスクワ生誕祭で)

「政治権力は銃口から生まれる」。毛沢東が語ったこのきわめて明快な権力観は、習近平の中国でも生きている。習近平は、2012年11月に中国共産党総書記に就いて以来、歴代の指導者と同様に、繰り返し人民解放軍に対して「党の軍に対する絶対的な指導」を守るよう繰り返し確認してきた。

 これを制度的に保障するために、やはり歴代の指導者と同様に、習近平は中国共産党のトップである中国共産党中央委員会総書記であり、国家のトップである国家主席であり、中国共産党の軍事に関わる意思決定のトップである中国共産党中央軍事委員会主席であり、国家の軍事に関わる意思決定のトップである国家中央軍事委員会主席を兼ねている。

 実は、中国共産党総書記はこれまで、その就任直後から、国家、そして軍の三権を一度に掌握してきたわけではない。現代中国政治において政治指導者たちは、権力を継承するとき、軍に関する権力の継承については、極めて慎重におこなってきた。

 天安門事件の責任を負って失脚した趙紫陽の後任として中国共産党総書記に就いた江沢民は、中国共産党中央軍事委員会主席の地位を、総書記就任から五カ月経ってから鄧小平から継いだ。江沢民の後継である胡錦濤は2002年11月に総書記に就任したが、中央軍事委員会主席となったのは2年後のことであった。

 中国共産党は、江沢民から胡錦濤への権力継承を、中国共産党の歴史のなかで初めて平和裡に実現したと喧伝した。しかし党の権力の継承の時期と軍に関するその時期にズレがあるように、江から胡への権力の継承は不自然なものであった。そして習近平の中国になって、ようやく中国共産党と国家と軍の権力の継承がスムーズに実現したといっていいだろう。

習近平による統治の安定度を知る手掛かり

 胡錦濤から習近平への権力の継承は、党も国家も軍も、すべて同じタイミングで実現した。そうであるとはいえ、やはり党と軍の関係は、中国政治におけるホットイシューだ。習近平政権のゆくえ、中国共産党による統治の安定性を評価するときには、習近平の軍に対する掌握の程度が重要な指標の一つになる。

 しかしこの「掌握の程度」を可視化し、客観化する指標はない。できることは、習近平が軍を掌握するために、どの様な取り組みをおこなっているのかを説明するだけである。今回のコラムも、そうした試みの一つである。

 習近平政権下の大規模な軍事制度改革の青写真が明らかになったのは先月のことだ。11月24日から26日まで開催された中央軍事委員会改革工作会議において決定され、発表されたのである。今年の9月3日に北京で開催された抗日戦争勝利・世界反ファシズム戦争70周年記念大会で習近平国家主席が提起した30万人の人民解放軍の定員削減も含む軍事制度改革だ。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

ニュース速報

ビジネス

中国恒大、会長が不動産引き渡しや理財商品の償還促す

ワールド

EXCLUSIVE-米政権、バイオ燃料混合義務の緩

ワールド

米FDA、高齢者らへのファイザー製ワクチン追加接種

ビジネス

FRB、11月にも緩和縮小開始 利上げ予想時期22

MAGAZINE

特集:予防医療の時代

2021年9月28日号(9/22発売)

病気は「治す」から「防ぐ」へ......ゲノム検診で異常検知し超極小「ナノマシン」が細胞診断する日も近い

人気ランキング

  • 1

    男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという間に「短命県」になったシンプルな理由

  • 2

    韓国の技術革新力が世界5位に──K ポップの活躍も要因。日本の順位は?

  • 3

    サイを逆さ吊りにする実験結果がイグノーベル賞を受賞

  • 4

    生放送の天気予報に堂々と映り込む犬「おやつが欲し…

  • 5

    「中国版リーマン・ショック」恒大集団の経営危機が…

  • 6

    中国版リーマン・ショック、「恒大」破綻危機で世界…

  • 7

    マスクなしでスーパーを埋め尽くす「買い物テロ」に…

  • 8

    タリバンがブラックホークを操縦する異常事態、しか…

  • 9

    ハリケーン被害:洪水で流れてきたワニに庭で食われる

  • 10

    ドイツ震撼 コンビニのバイト学生がマスク着用を注…

  • 1

    「携帯キャリアと正反対」 ネットフリックスが幽霊会員を退会させる狙いとは?

  • 2

    家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬

  • 3

    男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという間に「短命県」になったシンプルな理由

  • 4

    27歳で早期リタイアできるだけの資産を形成した私の…

  • 5

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目…

  • 6

    ハリケーン被害:洪水で流れてきたワニに庭で食われる

  • 7

    国石「ヒスイ」が生まれる東西日本の境界を歩く

  • 8

    韓国の技術革新力が世界5位に──K ポップの活躍も要因…

  • 9

    「ただ話を聞いてくれるだけ」の存在が、脳の老化を…

  • 10

    サイを逆さ吊りにする実験結果がイグノーベル賞を受賞

  • 1

    「レオ様」激似の顔を持つ男...その数奇な運命と、たどり着いた境地

  • 2

    中国の衛星が3月に軌道上で突然分解......その理由がようやくわかった

  • 3

    来日25年のフランス人が気付いた、日本の「あり得ない」裏の顔

  • 4

    失敗学の研究者が見た、日本人の「ゼロリスク」信奉

  • 5

    タリバンがブラックホークを操縦する異常事態、しか…

  • 6

    エヴァンゲリオン、美しく静かなラスト...ファンもこ…

  • 7

    無人島にたどり着いた日本人たちがたらふく味わった「…

  • 8

    小さな子供がいる家庭にぴったり! 「優しい」性格が…

  • 9

    動画サイトの視聴で広がる集団疾患、世界の若年層で…

  • 10

    330匹の猫が不審死...原因はペットフードか 重症猫…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中