コラム

今も気に入らない女性はなぶり殺し...「タリバンは変わった」の大間違い

2021年09月21日(火)18時35分
タリバン兵

大学で開かれたタリバン支持集会でもタリバン兵の手には銃が THE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO

<女性の人権の尊重などソフト路線をアピールするタリバンだが、アフガン人にとっては彼らの二枚舌は常識だ>

8月にアフガニスタンの首都カブールを制圧しほぼ全土を支配下において以来、タリバンは外国メディアに対し「われわれは誰に報復するつもりもない」「誰も恐れる必要はない」と述べ、特に懸念される女性の人権についても「イスラム法の範囲内」で尊重する、女性の就学も就労も認めると断言した。

日本のメディアはこれを好意的に報じ、茂木外相も9月5日のNHK『日曜討論』で「かつての厳格なイスラム統治から一線を画して、イスラム法の範囲内だと言いつつ、表現の自由や女性の権利に言及するなど、過去にはなかった融和的な姿勢を示している」と評価した。

しかしアフガンの現状とタリバンの過去、そしてイスラム法とは何かを認識すれば、その主張を額面どおりに受け取り、タリバンは変わったと楽観することなどできない。

最近もアフガンでは女性がタリバン兵に惨殺されたという報告が相次ぐ。ゴル州では妊娠中の女性警官が夫と子供たちの前でなぶり殺しにされた。ファルヤブ州では食事を作るよう命じられたものの貧しくて材料がないと訴えた女性の家に手榴弾が投げ込まれ、女性は殴り殺された。

ジャーナリストや人権活動家、判事、シェルターの運営者など、タリバンから脅迫されたため隠れて息を潜めるしかない女性もいる。国外脱出できた人々はごくわずかだ。夫を亡くし外出も仕事も禁じられた女性は食べ物の入手すらままならない。娘をタリバン兵に差し出せと言われ、取る物も取りあえず逃げてきたという女性もいる。

タリバンの二枚舌はアフガン人の常識

安全が完全に確保されるまで働く女性は家にとどまれという命令について、タリバンの報道官は「これはあくまでも一時的措置だ」と主張する。しかし1996年、タリバンがアフガンで政権を奪取した際にインタビューをしたCNNの看板アンカーの1人であるクリスティアン・アマンプールは、タリバンはその時も同じことを言っていたと警鐘を鳴らす。

国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの女性権利局で暫定共同局長を務めるヘザー・バーも同様の指摘をし、「タリバンが実権を握っていた数年間に治安がよくなり女性が自由になる瞬間など来なかった。アフガン女性たちは今回もそのような瞬間は来ないと考えている」と述べている。

数十年間タリバンを見てきたアフガン人にとって、タリバンの二枚舌は常識だ。アフガン人は99%がイスラム教徒であり、「イスラム法の範囲内での女性の人権」の意味も知っている。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story