コラム

RCEPで拡大する中国の影響力......中国が世界一の経済大国となる日を想定しなければならない

2020年11月17日(火)15時00分

ASEANはRCEPに参加する一方でFOIP(自由で開かれたインド太平洋)にも関わってゆかねばならない。そのため2019年6月にASEAN版のインド太平洋構想「ASEAN Outlook on the Indo-Pacific」を公開し、その後のメディア向けブリーフィングで、アメリカのFOIPや中国の一帯一路などの他の構想と連携してゆきたいと語っている(JETRO)。

避けられない中国の影響力拡大

中国はアメリカとその同盟国のサプライチェーンから締め出されたが、RCEPは新しいサプライチェーンの拡大の手助けになる。

中国の一帯一路の参加国は126カ国となり、全世界の人口の70%、GDPの半分を超えたという世界経済フォーラムの推計もある。なお、欧州復興開発銀行の推計では全世界の65%の人口と3分の1のGDPとなっている。少なくとも人口に関しては世界の過半数をかなり上回っているのは確かのようだ。

2035年には中国のGDPがアメリカを抜いて世界一となると予想されている。こうした中国と一帯一路の規模を考えると、相対的にアメリカやヨーロッパの影響力の低下は免れない。

RCEPを中国が主導する場合、参加国の増加が考えられる。たとえば、アメリカと日本主導のアジア開発銀行(ADB)に対抗して、中国が設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)には中東、アフリカ、ラテンアメリカ諸国まで参加しており、100カ国を超える世界的な組織となっている。

今回のRCEPも加盟国が増加し、アジア・アフリカ経済連携となれば、その経済規模と影響力は計り知れない。経済のことをだけを考えれば参加国のメリットも大きいが、中国の存在感はさらに大きくなる。RCEPの英語の名称は、Regional Comprehensive Economic Partnershipであり、直訳すると、地域包括的経済連携となり、どこにも「東アジア」という言葉はない。

そもそもオーストラリアとニュージーランドは東アジアではないし、参加を見送ったインドは南アジアである。アジア・アフリカさらにはラテンアメリカまで拡大してもおかしくない。アフリカとラテンアメリカでは中国の存在感がすでに大きく、これらの地区の今後の成長を加速させるためにも有効な方法である。

今、必要なのは事実を認めること

前掲の世界経済フォーラムの記事にはこう書いてある。
「The US and Europe must also accept the fact that the balance of economic power is shifting to the east」
世界経済の中心はヨーロッパやアメリカではなくなりつつある。そして経済をてこに政治外交の影響力も拡大している。前回の記事(新疆ウイグル問題が暗示する民主主義体制の崩壊......自壊する民主主義国家)にも書いたが、中国を支持する国が多数ある事実と、それらの国々の国際的存在感の拡大を認めなければならない。中国が世界一の経済大国となる日、一帯一路が人口と経済で世界の主流となる日を想定しなければならない。そのうえで今、なにをすべきかを考える時期に来ている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円・ユーロで上昇、FRB議長

ビジネス

米国株式市場=まちまち、金利の道筋見極め

ビジネス

制約的政策、当面維持も インフレ低下確信に時間要=

ビジネス

米鉱工業生産、3月製造業は0.5%上昇 市場予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story